中華バラストの回路



HIDいじりもずいぶん行ってきた。
中国製HIDをバラしてはみたが回路解析までは行わなかった。
というか、未だにそこまでは行ってはいない。
回路を知った所で面白みがあるわけでもなく、ハイパワー改造などは既に実施しているからだ。
回路の様子などはblogにも書いているのだが、まとめの意味でこのページを作ってみた。

http://www.fnf.jp/blog/2011/07/fnfblog4941.html
http://www.fnf.jp/blog/2011/07/fnfblog4945.html
http://www.fnf.jp/blog/2011/07/fnfblog4949.html

本来HIDのバルブは定電力ドライブされるものだ。
ドライブ電力は35W±0.3Wと規定されている。
定電力ドライブを行うためには管電圧と管電流を検出してDC-DCコンバータを制御する必要がある。

中国製の最近の謳い文句はディジタルバラストだ。
何がディジタルなのかは良く分からないが、少なくともメーカ品はCPUや専用デバイスを使って正しい制御を行っている。
しかし、たった200円のCPUですらケチるのが中国設計だ。

何種類か入手した中国製バラストの内部基板はほぼ同じで、番号などが異なっているだけだった。
基板番号は違うのに部品番号は同じとか、そんな感じである。
DC-DCコンバータにはTL494が使われていた。
これは電圧比較器を2個内蔵したPWMコントローラだ。



電圧比較器では管電圧とDC-DCコンバータの駆動トランジスタのソース電流をモニタしている。
かけ算機があるわけではないので定電力ドライブは出来ない。
また管電流を直接モニタしているわけではないので定電流ドライブとも違う。
オープンループではないが、正しいドライブ方式でない事も確かだ。

TL494でFETをドライブし、フライバックトランスを用いて高電圧を作る。
それを整流した後フルブリッジ回路で交流に変換してバルブをドライブしている。
定電力ドライブではないのでバルブの特性変化に対する許容度が低い。
HID時配光実験の時に、高色温度のバルブやDC用と書かれたバルブは中華バラストでは安定してドライブ出来なかった。
しかしレイブリックのバラストを使えば正しく点灯させる事が出来た。

HIDバルブは光量の立ち上がりが遅いため、コールドスタート時には管電流を定格の2倍ほど流す仕様になっている。
しかし中国製ではこの制御が行われていないものも多い。
CPUや専用デバイスを使うならともかく、インチキディジタルバラストでは複雑な制御が出来ないからだ。

35W品と55W品が同じだったという話はこちらに書いたが、ではどの程度までパワーアップ出来るのだろうか。
DC-DCコンバータがTL494なので、その周りの定数を変更すればパワーアップもパワーダウンも自在だ。
と言ってもレイブリック製などに比較すると効率がかなり悪いので発熱は多い。
バルブドライブ電力55W程度までなら対応出来るかも知れないが、それ以上になるとトランジスタの放熱が必須になる。
トランジスタを筐体に放熱した状態で、さらに内部に風を当て続けていれば80W程度のドライブ電力を作り出す事は出来る。
ただし制御余裕度が小さくなるのでインチキ定電力ドライブは、更にインチキ方向に行ってしまう。

トランジスタの放熱などに注意して、最大では100W程度までの電力でバルブをドライブ出来た。
このパワーだと管電圧が100Vを超え(規格は85V±17V)、電流は1A近くになる。
ローパワー化も可能だが、バルブドライブ電力が15W以下になると安定した点灯が難しくなる。

単車用などに低消費電力バラすとが必要な場合、中国製だと効率がそもそも悪いので余り意味がない。
中国製を20W程度まで落とした時の効率は75%程しかなかった。
レイブリックなどのバラストの効率が87%を超えているのとは大違いである。

同じ25Wのバルブドライブ電力を得るのに、効率が違うといかのような電流値になる。

中国製 η=75%
13.5V/2.5A

レイブリック η=87%
13.5V/2.1A

レイブリックで2.5Aまで許容出来るとすれば、30Wのバルブドライブ電力が得られる事になる。

中華バラストのDC-DCコンバータ用トランジスタはSAMWINのだ。
ON抵抗8mΩ、ドレイン電流110AのMOS FETだ。
フルブリッジの方はマーキングがなかった。
おそらくはどこかのメーカのFETのコピー品か何かだろう。

HIDへの入力電力の可変はTL494の端子をいじることになる。
電力そのものを変えてしまうのだからリファレンス電圧側をいじるのが早そうだ。
ただ、インピーダンスの高い場所なので電線を長く引っ張り出すのは避けたい。
スイッチや可変抵抗を引っ張り出している例もあるのだが、個人的にはお勧め出来ない。



カッタで切り取ったのはシリコンに埋められたTL494の乗っている子基板周辺だ。
切り込みを入れて子基板を取り出し、配線を引っ張り出して再び元に戻す。
実験用なので可変抵抗を付けてある。

この写真の状態、つまりDC-DCのドライバトランジスタを放熱しない状態でバルブ供給電力60Wあたりが熱的にギリギリかも知れない。
このトランジスタは金属部分が電源の+側につながっているので、そのままケースには落とせない。
簡単にやるならばシリコンを少し剥がして導熱エポキシでも充填するとか。

このバラストはAC点灯型なのでDC-DCの後にNE555でドライブされるフルブリッジが付いている。
だがDC用バルブと称するもの(見た目に違いは無いのでそう呼んでいるだけ?)とセットになったDC出力のバラストもある。
それの回路図は以下のようなものだ。



バラストの寿命を決めるのは内部の部品だ。
防水性や耐熱性などの問題もあるが、この中の耐熱性という点でケミコン(アルミ電解コンデンサ)は大きなウエイトを占める。
一般的にケミコンは経年変化で容量低下が起きるのだが、高温下ではそれが加速される。
使用温度範囲が通常品だと85℃、高温度品で105℃や125℃品がある。
内部を開けてみた中華バラストは105℃品が使われていたが、中国の場合の105℃が世界的その温度と同一かどうかははなはだ疑問だ。
85℃品に105℃とかかれているだけみたいな部品が珍しくないからである。

メーカ品の最近の傾向はDC-DCコンバータの駆動周波数を上げることによって平滑コンデンサ容量を小さくできるようにし、ケミコンを廃したものも多い。
ECUでもケミコン不良による動作障害が、特に古い車では見られる。
同様なことがバラストにも言えるわけで、それを回避するためにケミコン自体を使わない設計にする。

中国製の場合はコスト最優先なので当然ケミコンは使われている。
数は2〜4個程度、なお時定数を決めるような部分はタンタルが使われていた。