バルブの油圧駆動は凄いのか?(8/27)
◆ 可変バルブタイミング機構が使われ始めた頃、バルブをカム駆動ではなく電磁駆動にすればバルブタイミングも作用角も制御が自由に出来ると言われた。これは実験もされたそうだが、ソレノイド機構が大型化することでエンジンが高くなってしまう。

◆ 電磁バルブでは速度の追従性が良くなく多段スタックの圧電体を使ったソレノイドが試されたそうだ。圧電体を使う場合は高電圧が必要となり、電磁式の場合でも速度を上げるためには大電力が必要となる。当時は12V電源では厳しく、48Vが必要だみたいな記事もあった。

◆ バルブの電磁駆動にメリットがあれば開発が続けられたと思うのだが、やがて話は消えてしまう。しかしそれから時が経つとFIATが油圧・電磁駆動のバルブシステムを備えたエンジンを開発することになる。当初は電磁駆動にチャレンジしたらしいのだが、市販車に搭載されるエンジンとしては油圧併用型となった。

◆ 構造的には高圧油圧ポンプと電磁ソレノイドを組み合わせたもので、高圧筒内直噴エンジンの機構と似たような感じだと言えば良いだろうか。高圧オイルポンプはカムシャフトで駆動され、その油圧を電磁バルブでコントロールする。各バルブには油圧シリンダが付いていて、ソレノイドからの油圧でバルブを開く仕組みだ。

◆ これによってバルブタイミングもリフト量も作用角も自由に変える事が出来る。従ってスロットルバルブが不要になるのはBMWのバルブトロニック同様だが、バルブトロニックよりも更に広範囲でカムの動作を制御できる。

◆ 理屈的には早閉じミラーサイクル化が出来るが、FIAT曰く燃費よりもドライバビリティ向上の方に重きを置いて制御しているとの事だ。TIATはバルブ駆動のためのカムのメカニカルロスが低減できるとしているが、カムは油圧で動かしていて、その油圧を作るパワーが必要になる。従って多少は損失が低減されるのかも知れないが、逆に電磁バルブの制御電力が必要になるので、低損失化が出来ているのかどうかは疑問である。

◆ BMWのバルブトロニック同様にFIATのマルチエアエンジンも10年以上使われている。従って信頼性を含めたメリットがそれなりにある事になる。華々しくデビューしながら消えていく新技術が多い中、スロットルバルブレス技術は効率改善にメリットがあると考えられる。

◆ バルブトロニックでも同様なのだが、早閉じミラーによる低負荷域での効率改善効果は少なくはない。マルチエアの場合は更に作用角の可変範囲が広いので、効率改善の可能性は大きい。バルブトロニックでは早閉じミラーにはなるのだが、作用角の可変とリフトの可変が同時に起きる(起きるようにしか設計できない)ので、動作範囲が限られてくる。

◆ マルチエアで作用角を大きく可変するためには、油圧ポンプの駆動カムの形状も関係してくる。ただチューニング自体は出来ると思うのだが、極端なことをやろうとすると油圧ポンプのロスが増えてきそうな気もする。油圧駆動と言ってもアキュムレータに蓄積されている油圧を使ってバルブを動かすのではなく、ダイナミックに発生する油圧量そのものも使う方式でロスの低減を狙っているように思う。VVT同様に電磁バルブで油圧を制御している関係から、オイル品質と粘度には敏感だとか。