pHメータ3機種の比較


前回はISFET電極のpHメータと、ガラス電極のpHメータを比較した。
今回はガラス電極のpHメータ4種を比較してみよう。
まず前回比較に使用したNISSOのTwinPHだが、これは堀場製作所のOEM品である。
校正はpH7の1点で、表示分解能は0.1だ。
もう一つはアメリカンマリン社製のpHメータで、これはセンサ込みで$89と格安である。
9Vの電池駆動で3週間以上も連続使用がOKと低消費電力なのも嬉しい。
表示分解能は0.01迄となっている。
これはpH7とpH4又は10で校正するタイプだ。
pH7点はオフセット調整にあたり、pH4或いは10はゲインというか傾斜の調整になる。
調整は多回転半固定抵抗を回すアナログ式である。
基準として使用したのは堀場製作所のD-23と言うpHとイオン濃度の測れるテスターだ。
校正は多点で出来るが、今回はpH7,pH4,pH10の3点で校正した。
なおこれはUS設定であり、NBS設定ではpH2,4,7,9,12の点で校正することになる。
USの基準と日本で使われているNBSでは、例えば公称pH7標準液でもpH値が違う。
US基準ではpHをキリの良い数値(すなわちpH7の標準液はpH7.000)であるのに対して、NBS基準では純水に溶かす酸又はアルカリ試薬の量(mol/l)で決めている(公称pH7の標準液は25℃で6.86)。
校正時にはこの点を注意したい。
そのアメリカンマリンのpHメータは水槽水のpHを6.03と示した。
測定後にセンサのゼロ点と感度をD-23で測定してみるが異常はない。
D-23はセンサチェックもできるので便利なのだ。
センサをD-23に付けて校正し、これで水槽水を測っても6.03になる。

どうも腑に落ちないので、後日再度校正して測ってみると、pHセンサに水流があたる場所だと誤差が大きくなるような感じである。
試しに水槽水を容器に採って測定してみると以下のようになった。

(測定日が違うので水槽水pHも異なる。
堀場/アメリカンマリンともNBSで3点再校正後に測定)アメリカンマリンの方は瞬時値表示なので、下1桁は2〜3程度は動く。
いずれにしても低い値を示すことに違いはないが、この程度ならホビー用としては使えるのではなかろうか。
ちなみにpHの高い側の誤差は少なくなり、pH7.54の液体を測ったときにアメリカンマリンの表示は7.52だった。
NISSOのpH計は6.4を示した。
これも水をすくい上げて計測すると徐々にpH値がドリフトするので、センサ部を水中に数分浸けた状態で測った。
これは防水型で使いやすいのだが、センサ寿命が短い(乾燥させるとすぐダメになるので、頻繁に使用しない場合はセンサ部をKcl 3.33mol/lで濡らしておくと良い)くせにセンサが高価なので、ちょっと使いにくい。
実は最初のセンサは購入後3ヶ月程度でダメになってしまったのだ。

基準として使用するD-23は6.38を示している。

もう一台のpHメータは海水水槽に設置してある。
コイツは一旦電源を切ると校正値を忘れてしまうので同じ水を測れなかった。
これはボタン一つで校正できるタイプなのだが、pH7で校正するとpH4と10が合わなくなる。
なので普段はpH7でのみ校正している。
海水水槽のpHは7.7である。

表示分解能は0.1だ。
1点校正でオフセットのみをキャンセルしても、センサの感度誤差は10%以内なのでpH7付近で使用するホビー用としては十分なのかも知れない。
ちなみに堀場のものはセンサ感度が10%異常狂うとエラーとなる。
なおこのpH計に付属のセンサもpHが低い側で若干誤差が現れる。
同じ水をD-23で測定すると7.72と計測された。

なおD-23とTwinPH以外のセンサは温度補償されていない。
校正液は温度対pH値が決まっているのでアメリカンマリンのpH計は温度を加味して校正し、EUTECHの(LED表示)pH計は校正液を水槽水で25℃付近に上げてから校正した方が良い。
pHメータの精度はセンサの精度そのものである。
表示部は単なる電圧計に過ぎない。
ちなみにD-23に他のpHメータ(TwinPHを除く)のセンサを差し込んでも計測可能である。
ただし温度補償はされない。
堀場製作所のpHセンサは内部液(Kcl)の交換が可能で、これを補充することによって長期間使用できる。
これに対して他の2機種のセンサはKclが無くなった時点で使い捨てだ。
Kclは測定時に徐々に被測定液に溶けてしまう。
逆に被測定液がKclに混ざって精度を低下させることもある。
堀場の取り説によると、定期的に内部液(Kcl)を交換せよとなっている。
センサはアメリカンマリンのものが$40程度、国内で買って1万円程度の価格であり、堀場製作所のものでは(定価)1.5万円〜高精度のもので3万円程度である。
ここで言う高精度とは計測分解能が0.001 までの計測器に使用するタイプなので、ホビー用には不要だろう。
従って交換用pHセンサを入手するなら、Kclの交換が可能な堀場製(に限らないが、工業計測用)の方が得だと思う。
センサの品質は経時変化にも影響する。
常時測定型pH計付属センサが壊れたら、堀場辺りのセンサを購入した方が得かも知れない。
もちろん海外製のラボグレードpHセンサを使う手もある。
単品で輸入すると送料分がバカに出来ないが、何かと一緒に送ってもらえば価格的にはメリットがあるのだ。
補充/交換用のKclは自分で塩化カリウムを純水に溶かして作っても良いし、3.33mol/lの出来合を買っても250ccで\1,200である。
また校正液も熱帯魚用品とは比較にならないほど安くて、例えばアメリカンマリンのものは小数点以下3桁まで保証されたもので1袋(15〜25cc)$0.99である。
堀場扱いのものは24cc入りのパックで1パック辺り\163程度。
これは精度が±0.05pHだ。
ボトル入りだと500ccで\1,900なので、NISSOなどで扱っている校正液より全然安い。
それに精度も±0.02pHである。
(NISSOのものは±0.1pH) なお精密測定用の標準液は500ccで\5,700とNISSOのものに近い(笑)値段だが、誤差は0.003pHだ。
なおpH計は使用前後にセンサ部を純水で洗浄するようにしたい。
ガラスセンサはそれほどでもないが、ISFETタイプはKclが出てくる部分がグラスファイバのような繊維で出来ているものがあり、ここに被測定液が入り込んで誤差を大きくしてしまうからだ。
校正液で注意すべき点は、前記したようにUS基準とNBS基準があると言うこと。
日本でpH7の標準液として売られているNISSOのものはNBS基準であり、25℃の時のpHは6.86である。
またこの校正液をpH6.9と表示して売っているものもある。