中華バーナのまとめ



HIDテストは数々行ってきた。
いちいちリンクするのが面倒なほどなので、INDEXをご覧頂きたい。
前回はバラストに、文字通りメスを入れたわけだが今回はバーナの方を調べてみる。
そもそもは発光点を見てみたいなと思った所から始まる。
今回もblog記事のまとめみたいな感じになるので、写真も使い回している。

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まずは発光点を見るためにはどうすればいいのかを考える。
NDフィルタのような可視光透過率の低いフィルタがなければ強力な光を観察する事は出来ない。
昔はガラスにろうそくでススを付けて日食を観察するなんて事が行われていたが、今は目に悪いとかで推奨されていない。
あの日食観測グラスでもあればいいのかなと思ったが、そんなものは持ち合わせていない。

そこで引き出しをあさるとCDがあった。
CDは光を多少通すよなぁ。
以前にふとCD-Rを通して光を見たらそれが透過していて、安物CD-Rは光を通すのかと思った事があった。
で、プレスのCDも試してみたらこちらも光が通る。
そうか、安物でなくても光は通るんだと変に納得したものだった。

と言うわけで、CDを通して観測してみる事にする。



CDはたぶん紫外線域は余り通さないとは思うが、可視光が弱くなっているからと言ってこれをそのままのぞき込む事は推奨されない。
何せ強力な光なので目にダメージがあるかも知れないからだ。

まずはこの状態で実体顕微鏡越しに写真を撮ってみる。



なかなか美しい。
明るすぎて良く分からない感はあるが、発光部全体が光っている。
そこで更に倍率を上げてみる。
倍率を上げると撮影が、というか実体顕微鏡の接眼レンズにデジカメのレンズをくっつけて撮影しているので難しいのである。



左側の電極付近の方が右側よりも明るく見える。
なぜ均一に光らないのだろう。
そしてなぜ左側の方が明るいのか。
明るい理由は分からないが、明るい事を示す事実はこの後解る事になる。

もやもやしたものはガラス面が汚れているもので、これは石英ガラスと金属ハロゲン物質が反応して不透明な物質が生成されたものだと思われる。
これらの物質によってガラスの透明度が低下し、使用時間と共にバルブは暗くなっていく。

オーバドライブによって輝度が上がって色温度が下がる話はこちらに書いた。
今回は外部電源を使ってさらなるオーバドライブも行ってみる。
電源は、電圧自体は上げられるのだが最大電流が1Aまでしか供給出来ない。
なので管電圧によっては改造バラストよりも低電力でしかドライブが出来ない。

管電圧はバルブによって異なる。
規格は85V±17Vとなっているが、中華バーナはその限りではない。
レイブリックやメーカ純正などまともな設計のされたバラストならば管電圧が変化しても定電力ドライブしてくれる。
しかし中華バラストとなるとそうは行かず、管電圧の違いで放電が不安定になり点滅したり点灯しなかったりする。

外部電源でドライブする事のメリットは、常に管電圧と管電流がモニタ出来る点にもある。
公称6000Kの中華バーナは安っぽい緑色がかった発色だが、オーバドライブするとどんどん色温度が下がる。
電球色とは言わないが、見た目はかなりそれに近い。
これは約100Wで点灯させている写真(発光点は隠れるように撮影したが、しかし明るい)である。



自動車用HIDは基本的にはAC点灯だ。
しかしフルブリッジなどを廃したDC点灯のものも存在する。
DC点灯させるとアノード側とカソード側の電極消耗が異なるので、それに合わせた形状や太さの電極が必要になる。
また、ちらつきなどが起こりやすいので、この点でも専用設計が必要だ。
中国製では電極ギャップはそのままで内部のガス圧や成分を変えることでDC用と称するものを作っているらしい。
実際にDC用を見てみたが、電極ギャップはAC用と変わらず電極の太さのみアノード側とカソード側で違いが見られた。
このDC用のバルブ、AC点灯用中華バラストでは安定して点灯させることが出来なかった。
(レイブリックバラストなら安定して点灯させることが出来た)

DC化はプロジェクタ用途などでは使われている。
それはショートアーク、アーク距離を短くできるために点光源に近づけられるメリットがあるからだ。

自動車用では55W品なども売られている。
見た目の違いは発光点の大きさなのだが、発光部の内容積は35W品とほぼ同じでガラス厚が違うだけという話もある。
電極の太さも35W品とそう変わらないようだが、多少太くなるだけで寿命には大きな影響があるので実際に測ってみなければ判断出来ない。
熱容量が大きくなると光量安定までの時間が長くなることになる。
果たして寿命が本当に長くなっているのかどうか。

AC用のバルブを35Wで点灯させた時と約80Wで点灯させた時の差を見てみた。
CDによるフィルタではさすがに明るすぎるので今度はフロッピィを使ってみた。
磁性体の色で赤っぽくなってしまったが、発光部の違いがお解り頂けるだろうか。



HDDのプラッタを通してみると良いという話も聞いたので試してみた。
デジカメ(FX9)のAFが上手く決まらずに何度も撮り直した。
どうやらバラストのフルブリッジ駆動周波数が、FX9の気に入らない周期になっているようだ。
バラストによってフォーカス成功具合が違うので、ごく狭い範囲でAFがうまく動作しなくなるものと思われる。
放電の様子がご覧頂けるだろうか。
これはバルブもバラストも上で実験したものとは異なるのだが、左側電極付近の方が少し明るく見える。



こちらはCDを通して撮影したもの。



点灯直後からの動画↓(動画形式が違うのみで内容は同じだがMOVが一番キレイ)
xenond1.MOV(26.6MB)
xenond1.wmv(3.1MB)
xenond1.mp4(4.1MB)

22秒あたりのところで暗くなるが、コールドスタートシーケンスが終わって定常状態の放電に移行したためだ。
14秒のところでイグナイタが動作してしまっているのは実験のミスで、12V電源が瞬断したためである。
6秒から7秒あたりでは、電極が赤熱していく様子が見られる。
6秒から11秒にかけてガラス面に着いた金属等が消えていくに従って発光色が青っぽくなってくる。

※参考:正しいHID点灯シーケンス



オーバドライブ耐性も見てみることにする。
まずはこれまで実験に使ってきたバルブの電極部を観察する。



電極には水銀か何かの金属物が付着している。
左側の電極の方が、なぜか右の電極よりも短い。
新品時のギャップは2mmほどだと思うのだが、この状態で電極はかなり短い。

このバルブは定格ドライブでのべ30分程度、オーバドライブで10分くらいは使っている。
更に加速テストと言う事で1Aの定電流ドライブを行う。
最初は管電圧が120V程度だったので120Wでのドライブとなるが、徐々に管電圧が上がって150Vに達した。
電極の消耗によって要求電圧が上がったのだろうか。

そのまま数分ドライブし続けると突然消灯した。
その状態ですぐにイグナイタを起動してみるが点灯しない。
少しバルブを冷やした後にイグニッションモードにすると発光した。
発光直後は管電圧が低いが、チカチカしながら管電圧が上昇し、そして消えた。
少し冷やせば又放電するが、温まると消える。

内部温度が上がると圧力も上昇し、要求電圧が上がるのだろうか。
チカチカしている時には確かに電圧は上がっている(定電流ドライブなので)。
今回は電圧のリミットを150Vに設定しているので、不安定な点灯状態では電圧が上がると共に電流の減少が見られる。
安定して点灯しなくなったバルブの写真がこれだ。



右側の電極は残っているが、左側はほぼ無くなってしまった。
上の写真で左側の方が明るかったが、おそらくはそれと関係していると思う。
なぜ左側が先に消耗するのか。
ドライブ波形を見てもデューティーが狂っているわけではない。

この状態では既に発光部電極付近のガラスには細かなクラックが入っていて、気密性が維持出来ていないわけではないがやがて壊れるだろう。
点灯させると電極とガラスの間にも隙間が出来ていることが解り、そこに入り込んだ金属が沸騰している様子を見ることができた。
以前の実験でも連続オーバドライブ使用ではクラックが入るなどして不点灯になっており、これがその寸前の状態だ。

左側の電極が先に消耗したのは、中華バーナなので品質に差があったのか。
そこで電極の太さのわずかな違いが消耗に影響するのかどうかを見るため、新しいバルブで再実験してみることにする。
このバルブは事前に点灯テストを行った程度のものであり、のべ使用時間は30分にも満たない。
DC用のこのバルブは左側の電極の方がわずかに太い。
電極の太さの違いで摩耗がどうなるのかを見てみたかった。
もしかすると55W用のバルブは電極が太いのかな?と思って。



左側の電極には水銀か何かが付着している。
右側の電極はキレイなものだ。
このバルブをオーバドライブする。
管電圧が低いので1Aドライブで入力電力は約100Wとなった。
この状態で20分間ドライブし続け、それを観察してみた。



左側の電極は実験開始前と余り変わっているようには見えないのだが、右側の電極が減っている。
長さにして半分以下、1/3近くまで短くなってしまった。
この状態で管電圧が上昇している風ではなかったが、たった20分間でこの減り方は凄い。
左の電極はAC用バルブより少し太いように見える。
右の電極はAC用バルブの電極と同じくらいだ。
割って測ってみればいいのだが、さすがに水銀が入っているとなると気軽に破壊するのも躊躇われる。

この結果から、電極をわずかに太くすることで寿命は大きく伸びることが分かる。
メーカ製のバルブと中国製では電極の太さに差があるのかとか、見てみたい気がする。
また公称55W品はどうなっているのか。
ちなみに私が入手した中国製55W品は35W品と全く差がなかった。
予期の頃はPout=の部分だけ55Wに書き換えていたが、最近は電流値も書き換えてつじつまを合わせている。
これも勿論(!)管電流は35W品と同様だった。

HIDバルブの電極はタングステン、それが封入密閉度を上げるためのモリブデン箔に接続されている。
電極は通常はモリブデンであり圧着によって電線と接続される。
消灯時は発光部の内部圧力は負圧になっているが、点灯時には10〜40気圧にもなる。
なのでクラックが入ってガスが抜けるのではなく、突然破裂するとかなりの衝撃が発生するはずだ。

AC点灯用は両側の電極は同一サイズだが、DC点灯用は電子の移動による電極摩耗や電子放出などを考慮してカソード側とアノード側の太さや構造を変える。
中国製DC用はギャップには差がないようだが電極の太さは微妙に違う。。
コネクタというか電線の出ている側の電極がほんの少し太く、これは赤い線につながっている。
なお赤い線が+極かどうかは、DC用のバラストがないので解らない。

いくつかのバルブの電極を見てみよう。
拡大撮影するために実体顕微鏡にデジカメをくっつけて撮っているのだが、PanasonicのFXはこのようなシーンでフォーカスが合いにくい。
マニュアルフォーカスモードもないので前ピン(ガラス面にピントが合う)になってしまう事も仕方ない感じ。
接眼レンズにデジカメのレンズを適切な距離で近づけて固定し、手ぶれしないように撮るのだがフォーカスが合わない(AF失敗となる)ので、何ともイライラする。
点灯状態など、明るければそこそこフォーカスは合う(しかしフロッピィ越しの撮影は難しかった)のに。
倍率も合っていないというか、これはデジカメ都合なので実体顕微鏡の倍率を一定にしてもうまく合わせることが出来ない。
と言うわけで写真品質は低いが電極は何とか見えるのではないだろうか。

中国製35W品
公称6000kなのだが、異常に色温度が高いもの。
配光テストの時の写真を見て頂ければ分かると思う。
2本セットだったので、実験に使用していない方のバルブがこれだ。
電極は短く多少曲がっている。
このため要求電圧が高く、中華バラストではうまく点灯しなかったのかも知れない。


中国製55W品
55Wとシールが貼られているが35W品との違いは分からない。


レイブリック


別の中国製55W品
55Wとシールが貼られているが、これも35W品との違いは分からない。



撮影自由度の大きい、低倍率実体顕微鏡でスケールと一緒に撮ってみた。
中国製35W


中国製55W


レイブリック



レイブリックのガラスの透明度が高く見える。
そこで、並べて撮ってみた。
並べたのは中国製35W(高色温度)品だ。

最後に、1台のバラストに2本のバーナを付けたらどうなるか?
放電管は定電圧特性なのでパラに接続すれば管電圧の低い方だけが点灯するのは明らかだ。
そこでシリーズに接続してみる。
中華バラストはインチキ定電力ドライブなので、これでも点灯してしまう。



バラスト出力を絞っていくと35Wバーナが安定に点灯する限界は23Wあたりである。
従って2本直列だと(35W÷2)本来なら点灯しなくなるはずだが、ちゃんと点灯する。
バラスト側は入力電流が増えて、つまり1本のバーナあたり30W程度でドライブしている感じだ。

ただし安定に点灯し続けるわけでもなく、何かの拍子に立ち消えたりする。
バラストやバーナの組み合わせによっては3本直列でも点灯したりして面白い。
バーナが新品なら良いのかも知れないが、さんざん実験に使って電極も消耗しているものだと不安定だ。