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探偵(2)


  • Posted by: F&F
  • 2010年8月28日 20:05

三ノ輪は探偵事務所みたいなことをやっているらしくて、何故か小学生の時の同級生を集めている。
そもそも何故俺の連絡先が分かったんだと石川に聞くと、それも三ノ輪が調べたという。
三ノ輪の事務所は新宿にあるといい、事務所の名前も聞いたのだがピンと来るものはなかった。
つまり有名ではない探偵屋って事なのか。
こう言っては失礼だが、歌舞伎町あたりの奥まった雑居ビルの一室、さびの浮いたような鉄の扉が時代を感じされるような狭い、タバコのヤニにまみれた事務所と書類が積み上げられたデスク、陽の光も入らないようなワイヤ入りガラスの窓は開けた形跡も無しみたいな所を想像してしまった。
石川は会社の帰りに寄るというので、俺は佐々木保子を誘ってからその新宿とやらに行くことになった。

佐々木保子とは駅前で待ち合わせをしたのだが、顔など覚えているわけはない。
それに女性たるもの大人になれば化粧一つで、髪型一つで別人にだってなれるだろう。
小学生の頃の保子と言えば髪が長くて、何となくお嬢様っぽい気取り屋で近づきがたい印象があった。
可愛いというか美人だったのだが孤独な感じもした。
幹線道路と小さな川に挟まれた所のちょっと大きめの家に住んでいたから、貧乏ではなかったんだろう。

車の中でぼんやりそんな事を考えていると、Maserati GranTurismoのサイドウインドゥをコツコツと叩く音が。
そこには見栄えのする顔立ちの女性が立っていた。
車のナンバーを教えておいたので勝手に捜してくれたらしい。
短めのスカートの為かなんだか若く見えるなと思ったが、同級生なんだから同じ32歳の筈だ。
Maserati GranTurismoはミニスカートに優しくないかなと思ったが、彼女は慣れた様子でオシリからシートに滑り込む形で綺麗に足を揃えて乗車してきた。
6ATをドライブレンジに入れるとズンと軽いショックがあり、夕暮れ迫る阿佐ヶ谷の街をゆるゆると離れていった。
「面影あるわね」
彼女がふとそう言ったが、何と答えて良いのやら。
彼女はと言えば、小学生の頃の少しふっくらした顔つきとは全然違ってシャープな美人に変貌を遂げていた。
だからといって美人だねなんて言うガラじゃないし、他人の生き方を詮索するのは趣味じゃない。
まあ俺自身も詮索されたくない方なので、他人も同じじゃないかと思うだけなのだが。
「由美子から突然電話があったのよ、最初は誰かと思ったわ。探偵だって言うし、詳しい話は聞かせてくれないし、今日は一体何の集まりなの?」
青梅街道を東に向かい新宿の高層ビルが見えてきた下り坂のあたりで彼女はそう言った。
何の集まりかと言ったって俺だってそれを知りたいくらいだ。
まあ同窓会程度に思っておけば良いのだろう。

   

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