CLS350に乗る(2)


BENZは従来2速発進がデフォルトだった。
アクセルを深く踏み込めば1速にシフトダウンするが、通常では2ndから発進する。
これはシフトショックの軽減と大排気量故のトルクを活かしたセッティングといえるだろう。
だが数年前からは1速発進が使われるようになる。
燃費の問題その他でギアレシオを決めた結果、2nd発進では十分な加速度が得られなかったのかも知れない。
ただしATのモードを切り替えることによって従来通り?の2nd発進と後退もハイギアード(SLは後退2段)に切り替わった。
CLSでも同様に、Sモードでは1速発進になるがCモードにすると2nd発進になる。
ただし3.5リッターエンジンの場合は2n
発進だと少々トルクが足りないかなと思う場合もある。
トルクは不足気味になるが通常の走行ではC180より明確に加速は良く、さらにCモードの場合はシフトタイミングもより低速側になるのでシフトショックも皆無で、まさしくコンフォートモードという感じだ。
Sモードの場合は1速発進になるが、7段ATでギア比が近いために発進後すぐに2ndにシフトアップする。
ローギアードな1速→2速のシフトアップには若干のショックを伴うのでSモードを選ぶかCモードを選ぶかは微妙なところだ。
これが5.5リッターエンジンであればCモードで何ら問題はないと思うのだが、トルクの小さな3.5リッターでは微妙なのである。
走り出してしまえばCモードとSモードに大きな違いはなく、Sモードの方が多少高回転までエンジンを使うとはいうもののタウンスピードではあまり違わない。
キックダウンも、大きく踏み込めば7→5とか、2段いっぺんにシフトダウンするが、大きな不自然さは感じられない。
そもそもBENZが多段ATを好まないのはシフトショックを嫌ったためだと言われていたが、他社に先駆けて7段変速ATを採用したのはいかなる理由なのか。
同社によれば加速タイムの短縮と燃費向上にメリットがあるというのだが、小排気量車ならともかく大排気量車ではあまり違いがないのではないかとも思うのだが。
トヨタは世界初の冠が欲しかったのか、8段変速ATを搭載している。
多段化の流れがどこまで行くのか分からないが、大トルク用CVTの実用化が難しい現在にあって、ATの多段化は一つのトレンドなのだろうか。
トヨタは早くから10・15モード燃費対策のためにATの減速時自動シフトダウン制御を行っていた。
こうすることによってエンジン回転数を一定以上に保ち、積極的にフューエルカットを利用しようとするわけだ。
BENZも同様にSモードの場合は(タコメータで確認できるが)減速時にエンジン回転数が千回転以下にならないようにシフトダウンが行われている。
ただしこれが燃費のためか否かは分からない。


サスペンションは、後輪こそ従来通りのマルチリンクだが前輪は4リンク(ダブルウイッシュボーンのような感じ)に変更された。
これはセッティングの自由度と共に4WD化の時のドライブシャフトを通すスペースを確保しやすいからではないかと思う。
トヨタがはじめて量産車にダブルウイッシュボーンを使い始めたとき、サスペンション剛性が高いためにボディー剛性不足が性能に影響を及ぼし、ハーシュネスの吸収がうまく行かなかった。
ブッシュ類を柔らかくするなどの対策を採ったたようだが、サスペンション自体の剛性が下がった割にNVH対策にはならなかった。
その後国産車でもダブルウイッシュボーン採用車が増え、現在ではマクファーソンストラットと変わらぬ性能が出せるようになっている。
CLSやEクラスも同様で、従来より剛性が高くハーシュネスの吸収にも優れたものになった。
従来型との違いで顕著だと思うのはロール剛性の向上である。
ロールセンターを高めに持って行けたのか否かはよく分からないが、重い車の割に良く曲がる方だと思う。
SLはマクファーソンストラット(後輪マルチリンク)にハイドロセミアクティブサスペンションを組み合わせて、ロール角が5度を超えないような制御がなされていた。
そのため、通常走行時にロールを感じることはほとんど無く、路面のうねりに遭遇しても一発で(揺り返しなど無しに)姿勢を安定させた。
確かに足は硬めではあったが、ハーシュネスの吸収も良好なので不快感はなく、ロールをゼロに押さえ込む制御ではないため横Gが加わった状態での接地性も悪くは無い。
油圧アクティブはSLのみに搭載され、他はエアサスな訳だが、この油圧アクティブサスは良くできていると思う。
欠点はコストと制御パワーだろうか。
確かにフルアクティブサスペンションに比較すれば必要馬力は小さくて済むが、それでも数馬力とか十数馬力は食っているのではないだろうか。
燃費が重視される時代、サスペンションにパワーは食わせられないと考えられたとしても不思議ではない。
A160やC180は固い足の割にダンピングが不足している感じで、高速道路のうねりなどでは若干進路が乱される傾向が感じられる。
CLSの場合はSLほどのフラットさはないが、そこそこの出来ではないかと思う。
少なくとも乗用車としてみた場合は大きな不満はないはずだ。
ただしAMGモデルを考えた場合、果たしてシャーシ性能がエンジンに勝るのだろうかと疑問も残る。
AクラスやCクラスよりは格段に静粛性が高く、SLほどのスポーティーさは無いが、そこそこフラットにキャビンを保つCLSのセッティングは、乗用車としては標準的なものだと思う。
NVHはエンジン/排気音などを含めた静粛性は、まるでトヨタ車のような感じだ。
セルシオ(レクサスLS)のような低速域で無音?の世界とまでは行かないものの、旧Eクラスなどより乗用車チックな世界がそこには広がっている。
したがって乗用車以上のモノを求める向きには向かないかも知れない。
ハイパワー版のCクラスとか、SLとかSLCとは趣を異にする車がCLSなのだ。


エンジンはDOHCヘッドを乗せたモジュラエンジンで、90度V6 なので不等間隔爆発だと思う。
だがバランスは悪くなく、これは従来のSOHCの頃からそうだったのだが、高回転域でもノイズはそう大きくならず、バランスが取れている感じでレブリミットまで回っていく。
高負荷を与えて高回転まで回したときには「それっぽい」音を発したりしてちょっと楽しい?感じもする。
低速域はともかくとして、それ以上の回転域でノイジーなトヨタ直噴3.5 リッターエンジンとはずいぶん音質が違う。
確かにトヨタの3.5リッターはパワーも出ているのだが、いい音かと言われると否なのだ。
一方で等間隔爆発になるSOHC V8の方は多少アイドリングがラフなところもあり、トヨタV8ほどの安定性はない。
SLは排気音をチューニングしたと言うが、エンジン自体がきわめて乗用車チックなものなので回して楽しいようなシロモノではない。
V8に関しては旧5リッターDOHCエンジンの、それも初期型のKEジェトロのものが楽しかった。
A160やC180は明らかにアンダーパワーなのだが、CLS350は普通な感じである。
SL500よりも200Kgほど車重が軽いこともあり、SL500にそう劣らない感じの加速感はある。
これも乗用車としてみれば及第点という感じであって、それ以上を求める向きにはCLS550なりCLS63なりを選ばなければ不満がつのるはず。
余談だが、AMG製の6.2リッターエンジンはアイドリングこそ多少ラフな感じを受けるものの、大排気量V8とは思えない軽さで吹け上がっていく。
実際に所有して乗る機会はそう多くないだろうが、試乗車?などあれば一度経験してみるのは悪くない。
燃費はパワーに反比例なので、A160が町中で10Km/lを割ることが少なく、C180が同8Km/lを下回ることが少なかったのに対してCLS350は7Km/l前後、SL500は6Km/l以下(いずれも都内、平均速度20Km/h程度)といった具合になる。
高速道路における燃費は空気抵抗によっても差が出てくるが、SLが10Km/l以上走るのはお得感がある。
その割りにC180ががんばっても15Km/l程度なのはちょっと情けない。
C180の場合はもっと低速で定速走行したほうが燃費が良いと思うし、逆にSL600は130Km/h前後で走行したときの燃費が最も良かった。
CLSは100Km/h走行時のエンジン回転数が2000回転と高いために高速燃費はあまり良くなく、11Km/l〜12Km/l程度だった。
7段もギアがあるのだから、高速走行時にはもっとハイギアでもいいと思う。
追い越しや登坂などトルクが不足したらシフトダウンすればいい話で、低燃費クルーズ専用みたいなギア比(国産車では一般的に使われている)でもいいはずだ。
排気量と燃費を考えた場合、確かにアイドル燃費や暖気時の燃費は5リッターV8は悪いのだが、通常走行時を考えると意外に悪くない、いや、排気量を考えるとかなり燃費は良いと思うのだ。
ま、パワーが低いので燃費ぐらいみたいな感じがしないでもないのは事実だし、3.5リッターの直噴は5リッターシングルカムV8とほぼ同等の出力なのだから、5リッターシングルカムエンジンの燃費は3.5リッターと同程度でも良いじゃないかと言われればそれまでなのだが、定速走行時の燃費は3.5リッターエンジンとたいして変わらないかも。
ただしこのシングルカムV8は既にラインから消えていて、現在はDOHCの5.5リッターとなる。


CLSの視界はあまりよくない。
BENZは伝統的に視界のいい車で、多少サイズが大きくても車両感覚が掴みやすいので運転は楽だ。
だがCLSは前後が大きく絞られているためもあって斜めにバックするときなどは少々気を使う。
ミラーを使ったとしても後輪のあたりまでしか見えないので、その先がどこまであるのかが分からない。
で、超音波による距離探知機能が搭載されているのだろう。
バンパーに取り付けられたセンサ(の、蓋)はちょっと格好悪いが便利だ。
これはフロントにも付けられていて、斜め横方向との距離も測ってくれる。
全長約4.9mと長い車なのでパーキングに入れるときなど、この装備は便利に使える。
そもそもCLSはサイドガラス面積も小さいので、いわゆる見晴らし的には良くないのである。
もうひとつ視界の邪魔になるのがドアミラーだ。
太目の
ピラーとドアミラーが斜め前方の視界をさえぎる。
ちなみに身長約178cmの私がベストポジションを取った場合でギリギリAピラーの影がドアミラーに映らない。
この状態よりシートを前方にするとAピラーがドアミラーの視界を遮ってしまう。
Aピラーが寝ていて、(ドライバーからみると)その先にドアミラーがあるためにこうなるわけだ。
純正ナビはパナソニック製だが、動作速度こそSL搭載モデルより速くなったものの、その他の機能に関してはアフターマーケット販売品に及ぶべくも無く、さらにVGA表示でもないので見るべきものはない。
VICS対応にはなっているしナビとしては正しく動作するのだが、オマケ的な感じがする。
オーディオ関係も基本的にはSLなどに積まれていたものと同様の機能で、全体的にそう悪いものではないがマニアを納得させるものでもない。
要するに標準的なものなのだ。
シートは乗用車的でありSLのようなサイドサポートがある訳ではないし、その分シート幅も小ぶりな感じを受ける。
座面の前後長もSLのものよりは短く、深く体をホールドするものではない。
硬さなどはBENZのそれであって、長時間のドライビングでも腰痛を誘発する可能性は少ないと思う。
車種などで違いはあるものの、シートに関しては良く考えられているのではないかと思う。
ワンボックスカーに取り付けられているようなキャプテンシートというのだろうか、ふかふかで巨大なアレは腰痛持ちには辛いものだが、そんな心配は無用である。


タイヤサイズはこのクラスとしては標準的?な感じで、ホイールサイズはAMG(仕様)の場合はF8.5J×18 +30 R9.5J×18 +28 タイヤサイズF245/40ZR18 R275/35ZR18 となり、ノーマルだと、F8.5J×18 +28 R8.5J×18 +18 タイヤサイズF245/40ZR18 R245/40ZR18 になる。
SLの場合は、F 8.5J×18 +35 R 9.5J×18 +40 タイヤサイズF 255/40R18 R 285/35R18 で、直径は多少大きいがAMGなどのオプションを見るとSLと同サイズのタイヤをCLSに装着している例もあるので誤差範囲かも。