DC/ACインバータ


自動車用バッテリからAC100Vを作るためのインバータは古くから売られていた。
が、最近では重く大きなトランスを50Hz或いは60Hzでドライブするのではなく、より高い周波数でDC150V(正弦波出力の場合)を作ってからスイッチングして交流化する方法が一般的になった。
半導体デバイス数は増えるが、50Hz或いは60Hz用のトランスが不要な分だけ安くできるのだろう。
これもスイッチング電源デバイスが安くなったからだ。
最初にDAIWAのインバータを開けてみた。
これは本体のみで売られていて付属品等はない。
DCプラグはシガーライターコードが直結である。
箱には連続最大150W、サージ250W、周波数55Hz、出力波形は疑似正弦波と明示されている。
が、箱の中の取り説には出力波形が矩形波となっている。
早速オシロで確認すると、やはり矩形波だった。
ダイワインダストリーとはテキトーなメーカである。

パワーデバイスは6個使われていて、たぶんFETではないかと思う。
(日本製ではない)12Vから高圧DCを作るところに2個、後はDCをACにする部分だ。
ちなみにDC-DC部の発振周波数は40KHz程だった。
ACを作るところはダイオードブリッジの反対と思えばいい。
ダイオードの代わりにスイッチ(FET)を使って対向するFETを組として交互にスイッチしているわけだ。
構造的にはベーク基板2枚を使った構造だが、ケミコンに105℃品が使われている辺りはシッカリしている。
コイツはディスカウントショップで\4,000位かな。
次にセルスターのインバータを開けてみた。

トランスはトロイダルではなくEIになっている。
パワーデバイスは8個付いている。
4個が出力のスイッチング用で4個がDC-DCコンバータ用と思われる。
セルスター製は取り説にも箱にも出力波形が矩形波であると明示されている。
が、実際に波形を観測してみると矩形波ながら頭を使っている。
出力電圧は約160Vp-p程度だ。

容量は短時間なら230Wまで、定格は160Wで変換効率は80%がカタログデータだ。
コイツの高級?な点は、出力のAC100Vが安定化されていること。
これもスイッチング電源デバイスの恩恵って事かな。
作りはDAIWAのものより良く、基板も紙エポキシになっている。
電源コードは2種類付属し、予備のヒューズも入っていた。
が、お値段は高めの\9,800也だったそうだ。
(借り物)

DAIWAのインバータを改造して、AC100V/50HzからAC115V/60Hzを効率よく作るのが今回の目的である。
これはUS製のモータを定格でドライブしたいからに他ならない。
モータは36Wが2台なので電力的には間に合うだろう。
(ブラシモータではないので突入電流は少ないはず)試しに手持ちのスイッチング電源からDC12Vを供給して実験したところ、セルスターのインバータでモータを回すことが出来た。
DAIWAでは回らなかったが、どうやら12V電源の方がドロップしている模様だ。
しかし商用電源を12Vに落として、再度115Vに上げるのでは芸がない。
そこでDAIWAの一次DC電圧を測ってみると138Vである。
これならAC100Vをピーク値整流した電圧とほぼ同じだ。
そこで12Vから138Vを作る部分を切り離し、弱電部回路には12Vを供給する。
パワー回路用にはAC100Vをそのまま整流(整流器は回路内のものを使用)して突っ込んでみたのだ。
これで矩形波ながら60Hzの交流が得られた。
だがAC100Vを整流するところの電解コンデンサ容量が220μFしか無いので50Hzのリップルが乗る。
次なる改造は波形の小細工だ。
回路的にはNE556でパルス作り、それをD-F/Fで分周して60Hzでデューティー50%を得ている。
何故か逆極性のクロックと2つのD-F/Fが使われているのが不思議で、これだと元になるパルス幅分だけ正側と負側の信号がずれて、FETが電源をショートさせるように動くと思うのだが良いのだろうか。
それともFETのTonとToffを考えてのことなのか?まあいい、この部分の回路を改造しよう。
まずはパルス発生部のパルス幅を調整し、そのパルス幅をπ/3になるようにした。
この部分が正負両方の信号が出ない部分になる。
波形はこんな感じ(ただし周波数は60Hzとした)
この波形の絵はこちらで使ったものそのままである。
実際にはπ/3ではなく、3倍高調波が最も少なくなるように調整すべきだ。
実際の波形はこんな感じになった。
セルスターのものと比較するとON時間が長いのだが、これは波高値が低い(130V程度)ため意識的に長くしてみた。
AC100Vを整流するときのダイオード損失が1〜1.5Vで、FETのVdsが1〜2V位だろうか。
これが2個ずつ入るので電圧は140Vに達しない。
この為か120V/60Hz用のインダクションモータは起動に失敗することがある。

改造の方だが、回路変更のためにANDゲートを1個使った。
C-MOSの4011(NAND)である。
部品追加はこれだけで、後は少々の常数変更のみだ。
基板も片面ベークなのでパターンカットは簡単で、ICは2階建てに実装した。
さて、改造後の電圧は何ボルトにしたらよいのだろうか?まずは正弦波の場合を考えてみよう。
正弦波の実効値はピーク電圧を1.414(平方根)で割ればいいので、ピーク電圧が141Vなら実効値は100Vである。
正の半サイクルの平均電圧はピーク電圧をπで割ればいいので、約44.9Vになるはずだ。
一方矩形波の場合はピーク電圧を正弦波と同じ141Vとすれば、実効値は最大値の2乗の平均の平方根なので14 1Vだ。
(波高率、波形率とも1.0なので実効値=最大値=平均値)※半サイクルの値で、1サイクルの値はデューティーにより異なるが、今の場合は50%である。
さて、疑似正弦波の場合はどうだろうか。
ピーク電圧は141Vとした場合で、正の電圧出力時間と負の電圧出力時間を2π/3とし、出力されていない時間をπ/3で計算すると..実効値は約115.1Vになると思うのだが、交流を習ったのは昔の話なので計算が誤っているかも。
改造後72W分のモータを起動することもできるが、起動に失敗することもある。
電圧をステップアップトランスで上げておけばちゃんと起動する。
この時の波高値は160V程度である。
正弦波を作るにはFETをPWMで高速スイッチングして、平均値がサインカーブになるようにすればいい。
と言うのは簡単だが作るのは面倒だ。
もう一つの問題はAC100Vを整流して平滑するためのコンデンサである。
これには高耐温度品が使われているが、リップル電流で発熱するのだ。
触れないほどではないが気分的には良くない。
そこで250V/1000μFを並列に追加した。
これでケミコンの発熱もリップルも改善された。
下の写真は定格72Wのモータを接続したときの、ケミコンを追加する前の波形だ。

リップルによって波高値が下がってしまっている。
そのためモータ使用時にはステップアップトランスを必要とした。