永久磁石で燃費は改善されるか?
注意:−−燃費改善用磁石メーカからのクレームに対する表示−−
   この実験は、本文中にあるとおり「燃費節約用磁石」を使ったものではなく、通常の比較的強力な磁石を使用したもの
   です。
従って市販されている燃費改善用の専用磁石(形状や材質も様々)と同じ試験結果は得られないかも知れない。

   とは言ってもF&Fが市販燃費改善用磁石の燃費節約効果を保証する、或いは効果を肯定するものではないので、実際に
   それらを使う場合は「自分の財布の金を出すのは自分の責任で」行っていただきたい。



実際に満タン法での燃費計測はこちら
燃費改善装置として古くからあるものに「永久磁石」を使った物がある。
磁石を使用して燃料や空気を改質?し、燃焼しやすい状態にして10%〜20%の燃費改善とパワーアップを行うものである。
しかし、私はこれを信じていない。
1割も2割も燃費が節約できるなら、自動車メーカはそれを採用しているに違いないわけだし、直噴エンジンやハイブリッド車などの開発に巨額の資金を投入しなくて済むはずだからだ。
もっとも「燃費が改善されるのは、非常に調子の悪い車に限られる」と注釈が付くのなら納得もする。
Web上でも磁石利用の燃費改善装置を通信販売しているところがあるので、詳しくはそちらを検索されることをお勧めする。
燃費改善用磁石は非常に高価だ。
だいたい1万円から3万円くらいの値段が付いている。
それで内容はゴム磁石一枚だったりすると、かなり損な気分になるに違いない。
しかも、永久磁石が永久に使えるかというとそうではなくて、磁路が形成されない状態で放置すると磁力は徐々に減衰する。
特にエンジンルームなど温度の高いところで使用する場合は、磁力の減衰も大きくなるはずなので、この点に関しても今後検証していきたい。
燃費改善用と名前の付いた磁石はあまりに高価なので、こちらのサイトから磁石のみを購入して実験してみることにした。
磁石の大きさと磁力はハードディスクのヘッドアクチュエータのそれと同じような感じだ。
もしも壊れたハードディスクが転がっているなら、この中から磁石を取り出せば同じ実験が出来る。
磁石の取り付けだが、互いに反発する方向の2枚の磁石で燃料配管を挟むのだそうだ。
ちなみに配管は非磁性体の所でないといけない。
そこで、燃料配管のゴムホース部分に磁石を取り付けてみた。

燃料配管はリターン(燃料をタンクに戻す側)もあるので、取り付け時には注意したい。
これはビニールテープでの仮付けの様子。
ビニールテープなどの熱に弱い物で取り付けておいても、やがて磁石の反発力で外れてしまうことは目に見えている。
別の角度から見るとこんな感じだ。

ビニールテープだけではあまりに情けないので、ステンレスワイアーで補強した。

後ピンはデジカメのせいなので悪しからず。
磁石の両側には発泡スチロールを挟んで、取り付け安定性を増すようにしている。
これら燃費改善磁石を売っているページを見てみると、トヨタ車には効果がないとか外車はダメだとか..制限がうるさい。
(でも、なぜダメかは書いていない)また、フューエルデリバリパイプの長い6気筒エンジンでは効果が出ないと書いてあるところもある。
そこで念のためにフューエルデリバリパイプの中間付近にも1組の磁石を取り付けた。
幸いにしてフューエルデリバリパイプは非磁性体だったのだ。
本来ならVitaで効果を確かめたかったのだが、Vitaのデリバリパイプはインマニの下で、ホースにも容易に手が入れられなかった。
燃費は実際に走って見ないと分からないが、磁石販売のページには「アイドリングアップと安定性向上」をうたい文句にしているところもある。
もっとも、現代の車ではアイドリング回転数は自動調整されるから、これが変化することはまず無い。
しかし燃焼状態が改善(アイドリング燃費の向上)が有るとすれば、アイドリング時の燃料噴射時間に変化がでても良さそうなはずである。
そこでオシロを使用してインジェクタ駆動パルスを観測した。

まずはノーマル状態。

噴射パルスの平均は2.65mSである。
空燃比フィードバックやアイドル回転数の微妙な変化によって測定値は一定しないが、その平均が上記時間だ。
余談になるが、この駆動時間が燃料噴射時間で有ると言うことではない。
インジェクタには無効噴射時間と呼ばれる、インジェクタに通電を開始してから燃料が実際にでるまでのタイムラグがある。
タイムラグはインジェクタの種類や駆動方式によって異なるものの、だいたい0.5mS〜1mS+程度だと思う。
さて、磁石を取り付けてこれが変化しただろうか?20%の燃費改善効果があると仮定するとインジェクタ駆動パルス幅はどの程度変化するのか?実測噴射パルス幅が2.65mSで仮に0.65mSの無効噴射時間があったとすると、2mSが燃料を噴射している時間である。
これが2割減るのだから1.6mSとなり、無効噴射時間を加えると2.25mSとなるはずだ。
2.65mSが2.25mSになればオシロでも観測可能な範囲である。
実際に測ってみると..

全く変わっていない..そこで実際の走行燃費測定となるわけだが、SLの通勤時燃費と平均速度の関係は大体次のようになっている。

このグラフの通りの全てのデータを取ったわけではない。
(取れていないデータの部分直線近似)は速度は「平均速度」であり、10Km/hの点でも最高速度は60Km/h程度に達している。
平均速度が60Km/h以上では高速道路の走行がこれにあたる。
平均速度の差は道路混雑の差と考えていただきたい。
上図の水色の円が普段の通勤時の燃費だ。
通勤+空いた区間の首都高速走行だと黄色い円の辺りとなる。
東名高速を横浜から大阪に向かい、途中1時間(8Km)ほどの渋滞にあった時の燃費は8.5Km/lだった。
この時の平均速度は90Km/h程度である。
最高燃費は鹿児島からの帰路で、真夏に記録した10.5Km/l,平均速度は100Km/hを越えていた。
さて、磁石取り付け後の燃費はどうなったか..

鹿児島帰省時に燃費を計測した。
帰省ルート等はこちらをご覧頂きたいが、結果から言うと磁石の効果は認められなかった。
家の近所で給油して、神戸までたどり着いた時の燃費が9.3Km/lで96年冬に行ったときの燃費である9.5Km/lとの差は誤差の中だ。
ちなみに97年夏の時には最高で10.5Km/lを記録している。
神戸から門司まではフェリーを利用したが、門司から長崎経由で鹿児島までの燃費が9.5Km/lとなり、磁石取り付けによる燃費改善効果は無いと判断した。
磁石は燃料パイプに取り付けるものと、吸気管に付けるものが売られている。
吸気管は燃料パイプに比較して太いのでゴム磁石のシートなどが製品になっているが、ゴム磁石はそれほど強力ではない。
燃料パイプに磁石を付けても効果がないことが分かったので、その磁石を取り外して吸気管に付けてみた。
取り付け場所はエアフロメータとスロットルバルブ(電気制御式)の中間だ。
SLは左右バンクごとに別々のスロットルバルブがついているので、磁石も計4個使用した。
帰路の燃費は大阪−横浜間(大阪まではフェリー)で計測したが、結果は9.6Km/lで目立った変化は無し。
SLで効果がないからと言って全ての車両で効果がないとは断言できないが、私は磁石効果を信じない。
上の燃費計測結果を見て、往路の9.3Km/lより復路の9.6Km/lの方が良いではないか?と言われる向きもあるだろうが、満タン法の誤差や交通状況の違い、気温や湿度や気圧の違いなどを考慮すれば9.3Km/lが9.6Km/lになった程度では効果があるとは言えない。
だって97年夏には10.5Km/lを記録しているのだから。


燃費が1割とか2割とか5割も改善されると言うことは、同じ燃料の量でそれだけエンジン出力が上がると言うことである。
出力が上がらなければ燃費改善(=燃料節約)=パワー低下になってしまうからだ。
逆に5割のパワーアップが得られたらどうなるか? まず車検が通らなくなるのは良いとしても、エンジンやトランスミッション各部に加わる負荷は大きくなり、それらが機械的に壊れるかも知れない。
5割と言えば200馬力の車が300馬力になり、SLなど600馬力にも達してしまうのだ。
これなら絶対ミッションが壊れるだろうね。
この状態でも吸入空気量も噴射燃料量も変化がない(だから燃費が向上する)はずだし、もし空気量が増えて燃料噴射量が増えていなければ、空燃比が薄くなりすぎてエンジンは壊れるだろう。
もし磁石効果が燃焼速度を早くするとすれば、ノッキングが起きてしまう。
このように磁石効果は理論では解明できないもののようで、同一燃料(同一燃焼カロリー量)から化学的限界以上の燃料発熱量を引き出そうという、核融合みたいな理屈なのかも。
なお燃費改善磁石の能書きには「クラスタを細かくして燃えやすく..云々」との記述もあるが、燃えにくいものを燃やして不完全燃焼を起こせば、現在の排ガス規制には通らなくなる。
もちろんそのレベルになると触媒も(CO燃焼のため)極度に発熱するはずだし、3元触媒として動作しなくなる。
現在のエンジンは(メーカで)極限までチューニングされていると思って良いし、でなければカタログスペック競争で他社に後れをとってしまう。
そのエンジンの燃費を更に良くするというのだから、磁石効果とは宇宙パワーみたいなものかも知れない。