PCをチューニングするぞ


CPUを高速動作させるためには、温度を下げなくてはいけない。

C−MOSは温度に比例して伝搬時間が長くなるからだ。

もう一つ、電源電圧を上げる。

C−MOSは電源電圧に比例して動作周波数が上がるのだ。

ただ、いくら電圧を上げると言っても、定格3.4V前後のデバイスに
10Vもかけたらブチ壊れるだろうコトは想像に難くない。

取りあえず冷やそう

これがペルチェ素子だ。
(ペルチェとは、発明者の名前)このモデルは、ペルチェが2段構造になっている。
乾電池を直列につないで電圧を上げるように、ペルチェも2段にすると熱移動量がアップするのだ。
こいつの静特性だが、最大温度差が80℃まで行く。

これはフツーの1段ペルチェ大きさは2段のものとさほど変わらないが、値段は1/2より安い。
普通アキバ等で入手可能なのはこちらのタイプ。
ペルチェは熱交換ではなく熱移動だから、放熱側はペルチェの消費電力+吸熱分が排熱される。
これは大変な量だ。
ちなみに上の2段ペルチェの場合は、7V加えて21A流れるから、消費電力だけで150W近い。
これをうまく放熱してやらねばペルチェは一瞬にしてブローする。

このデカイ放熱器を見よ!奥行きは横幅の60%程ある。
こいつにペルチェを張り付けて実験すると、吸熱側の温度はみるみる下がり大量の霜が付くのだ。
と、所が排熱側の温度もぐんぐん上昇し、このヒートシンクが触れないほど熱くなるまでに大した時間は要しない。
当然ファンを使って強制空冷するのだが..
音はうるさいし、大体PCに内蔵できないではないか。
そこで、水冷方式の登場となる。
ペルチェの排熱側に水冷ユニットを張り付けるのだ。

銅ブロックをフライス加工したものがこれ。
一辺の長さはP54Cに合わせてある。
これに水を循環させるのだが、水量と流速が熱交換の決め手だ。
自動車用の燃料ポンプが非常に高性能だが、水を通すと錆が発生し2〜3日で動かなくなる。
そこで、水の代わりにオイルやフロン(液体)を使用して実験した。

水枕内部はこうだ。
左がフライス加工後のもの、右は細管を通して表面積拡大を図ったもの。
この液冷システムでCPU温度は−10℃前後をキープできたが、ポンプの音はうるさいし冷却液を冷やすためのファンはうるさいし..で、常用できる状態ではない。
しかもこのシステムの総消費電力は300Wにもなろうとしている。
この消費される電力の殆どは熱になり、わずかが音となって室内環境を悪化させているのだ。
これではいけない。

炭酸ガスを使おう!



炭酸ガス冷却の前にやらねばいけないことがある。
まず温度計の制作だ。
通常市販されている電子温度計は、測定下限温度が−20℃あたりのものが多い。
しかし、炭酸ガスの気化熱を利用した冷却システムの目標温度は−60℃だ。
温度計のレスポンスも上げたい。
毎秒1回の計測では物足りないのだ。

そこで、ディジタルパネルメータを利用して温度計を制作した。
測温素子にはPtすなわち白金センサを用いる。
白金温度センサの利点は、温度に対する抵抗値が決まっているので校正が非常に楽な点だ。
−60℃と0℃の点で校正すると、その中間点の最大誤差は±1℃に収まる。
回路構成は、白金センサに電流を供給する定電流回路と白金センサの両端に発生した電圧をディジタルパネルメータの必要とする電圧まで増幅するためのオペアンプだ。

回路は基板上に小さく組んで、ディジタルパネルメータの裏側に実装した。
電源はPCから取るべくPC標準の電源コネクタを取り付ける。
センサへの線は、CPUの足間を通すため0.65mmのホルマル線を使用した。
もう一つの課題。
それは結露対策だ。
エクステンダー諸氏が苦労して各種の試みを行っている。
もっとも一般的なのは、シリコンゴムやホットボンド等でCPU周りを固めてしまうもの。
しかしそれではメンテナンス性が悪い。
そこで、真空断熱の実験をしたみた。
すなわち魔法瓶の原理で、冷えたCPUと外気の間に真空層を設けようというものだ。

これがアクリルで作成した、通称「CPUハウス」厚さ3mmのアクリル板を使用した。
アクリルは加工性がよいので、こう言った用途にはピッタリだ。
底面はマザーボードとの間を両面テープと少量のシリコンで固定する。
上面はアクリル性のフタを両面テープで固定するのだ。
内部を減圧するから、マザーボードやフタはピッタリくっつく。
写真のCPUハウスは、何度かの試作を経て完成したものだ。
最初は薄いアクリル板(2mm)を使用したが、大気圧に負けて破壊してしまったのだ。
ポンプは、いわゆる「金魚のポンプ」の親分みたいな構造のものを使用し、−50cm/Hgまで減圧できた。
結果は良好で結露は全く発生しない..が、CPUソケットを通してマザーボード自体が冷え始め、マザーに氷がはってしまうのだ。

そこで、マザーボードにコーティング材を使用した。
これはアルコールを溶剤とするもので,コーティングした上にシリコンを塗りつければ剥がすときも楽なのだ。
注意点は、一度に大量のコーティングを施すと乾きにくくなって流れ出す事。
また、CPUソケットに上がってしまって接触不良を起こす点だ。
しかしこれほど手軽でキレイに仕上がる物は他に考えられない。


クロックアップに事故は付き物だ。
これまでに、マザー1枚,I/Oカード2枚,HDD2台をあの世へ送ってしまった。
I/Oカードは、(たぶん)電源のせいだろう。
このカードはRS−232C用として±12Vを必要とするが、5V系電源を別電源(AT用電源ではなく)から供給すると、5V系と±12V系の立ち上がりがそろわなくなる。
たぶんそれが原因でラッチアップでも起こしたのだろう。
COM1/2が死んでしまった。
HDDについては、何ともいえない。
(「クロックアップのせいだ」って声が聞こえる..)機械ものは普通に使っていても寿命は訪れるからだ。

壊れ方は、不良セクタが山ほど出来てフィジカルフォーマットすら受け付けなくなる。
SCSIインタフェースのものは比較的丈夫らしいが、IDEは弱いぞ。
FDからの立ち上げがカッタルイって人は、安いHDDをテスト用に使用することをお勧めする。



マザーの上では迫力の絵が撮れなかったからテーブルの上に移動だ。
CPUハウスの中のブロックに、メータリングバルブ(兼エクスパンションバルブ)を通して炭酸ガスを供給した。
メータリングバルブは工業用のもので50Kg/cm2に耐えるもの。
耐腐食性も良好なSUSで出来ている。
ホースはレーシングカーなどに使われている,テフロンチューブの周りをステンレスメッシュで覆ったもの。
こいつは150Kg/cm2以上の圧力でも大丈夫だ。
まわりに飛び散っているのは、いわゆるドライアイス。
常温常圧下では液化炭酸ガスは液体でいられない。
すぐに固体化するのだ。

見てくれ!この温度。
CPUの温度でさえ−60℃以下をキープできる。
銅ブロック自体の温度はここまで下げられるのだ。
これは、実験のために大気解放で使っているが、実際には一部を結露防止用としてCPUハウスに戻すほか、パイプで窓外に放出している。
室内に放出すると、頭痛くなるからね。

ドライアイスがたまった図銅ブロック内部の細管にドライアイスが詰まってしまうと当然冷えない。
適度なガス量をメータリングバルブで調整するのだ。
ちなみに、毎分100cc(常温気体容積として)ほども出せば十分冷える。

PCの電源を切ったら、炭酸ガスを止めるように電磁バルブを使用する。
一々バルブを閉めてたら手間だからね。
私は写真にあるような小型ボンベの他、屋外に大型(40Kg入り)ボンベを設置している。
配管の長さは5m程になるが、気化しない状態だから配管が冷える心配はない。


CPUの動作時温度を−60℃まで冷やしてどの程度性能向上するのか?周辺チップの性能(クロックアップ時の)にもよるが、最大で50%アップって所か。
P54C−90/100がやっと150MHzで動く。
P54C−166は230MHz位がいいところ。
こいつは空冷でも200MHz近くで動くから、冷却効果があまり無いと思われる。
公称クロックの高いデバイスほどチューニングは難しいと言えるだろう。
また、マザークロックを低くして3倍速で動かすのはパフォーマンスが出ない。
P54Cはバス使用率が高いから、外部を高速で動かさなくてはいけないのだ。
200MHzでの使用を考える場合、CPUのチューンよりキャッシュやDRAMまわりを攻めて、マザークロック100MHzに挑戦したい。



マザーにセットした状態がこれ。
メータリングバルブもアクリルでカバーしている。
白く見えるところはシリコンだ。
CPUハウスからのびる白いホースは炭酸ガス排出用。
その隣の黒いホースは、排出された炭酸ガスの一部を室温に戻してから再びCPUハウスに導いて、CPUハウス内に室内の(湿気を含んだ)空気が入らないようにしている。
CPUハウス内の銅ブロックが、全く結露していないのがお分かりいただけるだろうか?またPCのケースを閉められるように、ガスの入り口はカードスロットの所を使用している。
手前に見える(分かるかな?)ファン(赤と青の線,本体は黒)は、DRAM冷却用。
ISAスロットにはSB16とEther Netカードが、PCIスロットにはPW864が実装されている。


C−MOSは温度を下げると遅延が減ることは最初に述べたとおりだが、なぜP54Cが温度に反比例して高速動作できないのか?P54CのプロセスはBi-CMOSだ。
つまりバイポーラとC−MOSが組み合わさっている。
バイポーラはバスドライバ等の所に使用されていると思われるが、このバイポーラ、温度の低下と共にhfeが下がりスレッショルドが上がる。
つまり、高速動作しにくくなるのだ。
このあたりが性能を相殺するのではないか?と考えられる。
また、CPU電圧は3.8V〜4.6V当たりに(高速動作上)良い点が有るが、これにしても純粋なC−MOSならば電圧に比例しても良さそうなものだ。
P54C−200に若干の期待はするが、−166の特性から見て空冷240MHzが動作すれば大したものだろう。
パイプラインの浅いP54Cでここまで動けば立派と言っていい。
噂によると次期P55Cは、オールC−MOSになるとの話もあるので期待したい。
そうそう、パイプラインの深いP6(Pentium Pro)は300MHz動作も確認されている。
なぜ私がP6に乗り換えないか?答は簡単「高いから」..って事もあるが、本命は次期P6と踏んでいるのだ。

Pentiumも鳴り物入りで登場した60/66MHzが辿った運命を見れば分かるとおり、Intel製
品の初期バージョンには飛びつきたくないのだ。



CPUを高速動作させると寿命は短縮されるのか?答えはYesである。
設計寿命がどのくらいか分からないが、1桁くらい下がるかも知れない。
半導体だから、劣化はほとんどないのでは?と思われるかも知れないが、細い配線の中を高速で電子を移動させるCPUは、だんだん劣化していく。
それを、定格電圧以上を加え定格クロック以上で動かすのだからCPUの設計者が見たら泣くね..きっと。
ただ、私の経験としては壊れた(壊した..か?)ものは無い。
特性劣化についても、明確に証明できるほどのものは無い。
CPUが壊れるより先に、他の部分が怪しくなるから..かもしれないのだが。