PHSによる(公称)32Kbpsデータ伝送方式を考える
PHSによる32Kbpsのディジタルデータ伝送が97年4月1日から開始される。
そこで、このデータ伝送方式の標準規格PIAFSを考えてみた。
PIAFSとは Phs Internet Access Forum Standard の略で、数年前から端末メーカや事業者が参加して企画検討が行われていたものだ。
しかし、各社の利害関係もあってなかなか規格がまとまらなかった。
そこでDDIpは独自方式でサービスインしてしまい、それを標準化作業で(実績を武器に)スタンダード伝送方式にしようと目論んだ。
そのためDDIpでは独自方式によるLSIを早期に完成させていたし、TA側についても準備を整えていた。
と、所が!DDIpの思惑通りに事は進まなかった。
PIAFSが業界標準としてスタートすることが決まったのだ。
PIAFSの概略
まず最初にPHSのデータフレームを復習しておこう。
通話チャネルに於けるPHSのデータフレームは下記のような構成になっている。
R 2
SS 4
PR 6
UW 16
CI 4
SA 16
----------------------TCH--------------------- 160
CRC 16
R ランプビットSS スタートシンボルPR プリアンブルUW ユニークワードCI C
SA SAcc
TCH
CRC CRC-CCITT16 この中でユーザが使える部分は160ビット長のTCH部分だ。
通常はこの部分に音声データが乗っている。
PHSのデータ速度は384Kbpsであり、それをTDDとTDMA4スロットで分割するから1スロット当たりの平均伝送速度は384Kbps÷8=48Kbpsになる。
スロット全体で240ビット(上図では24ビットだが、CRCの後ろにガードタイム16ビットが存在する..スロット間干渉防止のため)なので、48Kbps÷240×160=32Kbpsとなるわけだ。
このTCH部分を使用したデータ伝送は、誤りに関する保護はなされていない。
ちなみにSAや同じTCH部を使用する場合でもFAcchに関してはLAPDCによるARQ誤り保護プロトコルが動作する。
PIAFSとしてデータ伝送を行う場合には、何らかの誤り保護がなければいけない。
そこで、TCH部を使用した通信の上位プロトコルとしてARQ(再送方式)による誤り保護を実装したのがPIAFSで有る。
もちろん誤り保護を行うためには、それらの制御ビットが必要でありその部分はユーザデータを乗せられないから、実質データ伝送速度は低下するのだ。
これをTCH単位で行おうとした場合には、160ビットに対して16ビット程度の制御ビットが必要になるから、28.8Kbps程度の伝送速度となってしまう。
これを避けるため(と、PHSによる64Kbps以上の通信制御のため)にPIAFSでは640ビット単位でARQ制御が行われるのだ。
640ビットというと、丁度TCHぶの4倍の長さになる。
すなわち、PHSの4スロットでPIAFSの1フレームが構成されているわけだ。
PIAFSをうまく使うには?
上記のようにPIAFSはPHSスロット4個乃至5個(PHSスロットとPIAFSフレームに同期間系はない)で構成されているため、その内の1スロットでもエラーが起これば無条件に640ビット単位での再送が行われることになる。
当然再送が起これば実質伝送速度が低下するわけだから、エラーのない通信条件が確保されて初めて29.2Kbpsの理論伝送速度が実現するのだ。
では、640ビット中に1ビットもエラーのない状態とは..少なくとも10のマイナス3乗のエラーレートで有れば1フレームだけは通ることになる。
連続10分間ノーエラーで通すためには毎秒32Kビット×10分間だから、マイナス7乗よりエラーレートが良くなくてはいけない。
これはほとんど不可能な数値だ。
通常の通話状態で「そろそろ切れそうだな」がマイナス2乗程度、たまにプチプチ言うくらいでマイナス3乗と言ったところだ。
電界強度が十分で、電話機を一定のポイントに固定して環境状態が一定(人間の移動もなければ風が吹いて立木が揺れることもないとした場合)で、やっとマイナス6乗からマイナス7乗になると思う。
まあ、無理なことを言っても仕方がないわけだがデータ伝送を行う際はなるべく通信状態が良くなるようにする事。
これによってスループットは向上する。
PIAFSフレームの構成
PIAFSモードになって最初はPIAFSフレームの同期を取る必要がある。
その為、最初のフレームにはsyncパターン(32ビット長)が含まれており、制御部はこのパターンの検出を行う。
syncが正常に検出されたかどうかは、フレームの終わりに付けられているCRC-CCITT32をデコードしてチェックを行う。
syncが正常で有れば、次のフレームからはsyncを抜いて(スループットが上がる)データを詰めて伝送するわけだ。
もちろん100%がユーザデータエリアに使用されるわけで無く、ARQ制御のためのフレーム番号だとかデータ長などの制御データも含まれるのだ。
通信の相手は?
現時点では、一般向けTAにPIAFSフレームの理解できるモデルはない。
PIAFS対応PHSからのデータは、そのままISDNの1Bチャネルを流れるから通信先にはPIAFS対応のTAが必要になるわけだ。
NTTp等は、Niftyやインターネットプロバイダに対してPIAFS対応TAの設置を呼びかけているが..やはりコストのかかる事だけに、どの程度の対応がなされるのか?現時点では不明だ。
もちろん自前のOCNにはPIAFS対応のアクセスポイントを設置するだろうが..