無脊椎を飼うには?


無脊椎を飼うにはどうしたらいいか?一体いくら位の費用と手間がかかるのか?そんな質問を受ける事がある。
なので、ここでは無脊椎水槽一式を立ち上げるためのプラン?を書いてみたいと思う。
【水槽】
何と言っても水槽がなければ始まらない。
材質はガラスとアクリルがある。
アクリル水槽は軽くて割れにくく、熱伝導率がガラスよりも低い。
ただし傷が付きやすいので私はお勧めしない。
無脊椎水槽では石灰藻などが水槽面に付き、それをそぎ落とすためにスクレーパを使用する。
その為に淡水水槽や海水魚水槽よりも傷が付きやすいというわけだ。
ガラス水槽は重くて高価ではあるし、透明度もアクリル水槽には及ばない。
しかし傷つきにくい点だけを見ても十分なメリットだと思う。
水槽のサイズは大きい方が良い。
水量が多い方が管理が楽だというのがその理由だが、置く場所と価格でサイズは制限を受けるだろう。
60cm規格水槽(売価2千円程度)でもサンゴ飼育は不可能ではないが、ここでは最低限の大きさを90cm規格水槽としたい。
このタイプは900mm×450mm×450mmのサイズで、置き場所に苦労すると言うほどの寸法でもない。
高さや奥行きが600mmのものもあるが、横幅900mmに対しては高さが450mmの方がバランスが良いのではないだろうか。
水草水槽での比較になるが、高さ450mmだとこんな感じ。


高さ600mmだとこんな風に見える。


水槽ってヤツは、日が経つにつれ、生体が増えるに従って大型化したくなるものだ。
←キッパリだから、置き場所が許せば1200mm×600mm×600mm程度を視野に入れたい。
これだと水量もぐっと増える事になり、安定度も増す。
奥行きが厳しい場合には1200mm×450mm×450mmの選択も出来る。
ウチの水槽など1800mm×450mm×600mm(H)と薄っぺらい(置き場所の都合)のだ。
サンゴなどを実際に置いてみると解るのだが、奥行きが無いとレイアウトに苦労する。
特に前面から見た場合には水槽の奥行きは実際以上に狭く見えるから、出来れば600mm奥行きと行きたい。
ここでは1200mm×600mm×600mmで話を進めよう。
ガラス製オーバフロー水槽、通常ガラスの市販品で8万円〜12万円程度の価格だ。
ちなみにアクリル製の場合はその半額程度でも入手出来る。
水槽は長く使用するモノなので、余りケチらない方が良いと思う。
ガラス水槽の場合の板厚は12mm程度になるだろうか。
余り薄いと水圧で湾曲してしまう。
(割れるわけではない)価格はガラスの板厚と材質で決まると言っても良いだろう。
安いガラスだと透明度が低いというか、緑っぽい色のガラスになる。
通常のガラス水槽はガラス板がシリコンで接着されている訳だが、シリコンは透明なものと黒色のものがある。
一般的には黒色シリコンの方が耐久性があると言われているようだが、実際の所はよく分からない。
少なくともメタハラからは紫外線が出ているので、透明シリコンだと変色してくる可能性がないとは言えないと思う。
【水槽台】
水槽を置くための台も必須だ。
このサイズの水槽と中味の重さは500Kg程にもなるから、玄関の下駄箱の上というわけにはいかない。
それにオーバフローパイプを通すための穴も必要だし、水槽台の中には各種機材やサンプ層だって設置しなければいけない。
安価なモノとしてはショップオリジナルなどの、金属チャネルを溶接したものから、高級品だと家具調のそれなど様々である。
鉄製のアングル台と呼ばれるもので2万円以下、家具調のモノだと30万円もしたりするが、選択のポイントは見栄えと丈夫さだ。
ここではメーカ製のウッドキャビネット、5万円位のものを考えたい。
水槽をインテリアの一部として考えるのであれば、いや、インテリアの一部として考えた方が良いと思うから、キャビネットは慎重に選ぼう。
一度設置すると移動も大変なので置き場所も選ばなくてはいけない。
【サンプ槽】
オーバフロー水槽では水槽より下にサンプ槽と呼ぶ、水槽?を置く。
本水槽からオーバフローした海水がここに溜まり、そこからポンプで本水槽に循環する仕組みを作るからだ。
サンプ層は何でも良いのだが、900mm×450mm×450mmで2万円程度のアクリル水槽で良いだろう。
穴開けも簡単だし、ショップに注文すれば加工もして貰える。
揚水ポンプが停止すると本水槽の水位は下がり、その分の水はサンプ層に落ちてくる。
サンプ層の表面積が本水槽のそれより小さい場合は、本水槽の水位低下よりサンプ層の水位上昇度合いの方が大きくなるのは当たり前の事。
従って、その分を考慮しないとサンプ層は溢れて床は海水まみれになる。
【ポンプ】
サンプ槽の水を本水槽に上げるためのポンプが必要だ。
ここにはクーラなども接続するので、余り静圧の低いものでは駄目。
また信頼性も重要なので、いわゆるパワーヘッドなども避けたい。
流量は多い方が良いのだが、価格と騒音と消費電力の関係もあるのでマーフィードのMMD-430あたり(2万円)で如何だろうか。
他に水槽内で水流を作るためのパワーヘッドなども必要になるが、これらは後から設置しても良い。
【クーラ】
クーラは必須である。
冬場でも暖房された部屋でメタハラが点灯すれば、水温は上昇気味になる。
クーラは予算が許す限り大型のものが好ましく、その方が効率が良い。
室内設置型だとレイシーのLX-150CXが最低線で約8万円だが、LX-200CX程度の能力がないとちょっと不安だ。
クーラを室内に設置すると、当然ながらクーラの排気は室内に行われるから室温が上昇する。
LX-200CXに10万円を払うなら、2万円ほど上乗せして能力は約2倍のKDA-500 の方がずっと良いが、室外設置型である。
壁に穴を開けられるのならKDA-500が良いだろう。
その場合は配管の圧力損失も大きくなるので、ポンプはMMD-530か600にしよう。
ヒータはこのサイズの水槽だと総電力600W程度は必要だろうか。
切れた場合を考慮して300Wのものを2本使おう。
クーラのタイプにもよるが、クーラのサービスコンセントでヒータのコントロールが出来るものもあり、その場合はサーモコントローラは不要である。
【スキマー】
スキマー無しで水槽を維持する方法もあるのだが、少なくとも立ち上げ時などはコイツがないと失敗する事が多い。
これは好みによるので何とも言えないが、調整の簡単さならH&SのHS-850(6万円位?)か比較的ハイパワーと言われているバレット1(6万円位、ただし別途ポンプが必要)だろうか。
ちなみに私が使用しているのはH&Sと同構造のDASというもので、おそらく今は売られていない(当時米国から個人輸入で入手)。
HSA250も同価格帯だが、サンプ層内に設置する場合には水位に敏感な所がある。
いずれにしても、H&SかバレットかHSAかETSSを選んでおけば間違いはない。
【照明】
ミドリイシなどの好日性サンゴは光合成を行って生きているので、強い照明は欠かせない。
水槽サイズからすれば250Wのメタハラを2台と行きたい所だが、250Wのブルーメタハラ+150Wのスーパークール115などでも良いのではないかと思う。
広角配光で水面の比較的近い所に取り付けられるものはアストロビームライト、逆にスポット的に強い光が欲しい場合にはエムズワンのMTなどが適当だ。
天井近くにメタハラを設置してインテリア性を高めようとする場合、更に狭角になる松下製の灯具を選ぶという手もある。
ちなみに自作した場合は、メーカ製価格の半分位のコストで実現可能だ。
メタハラの球は3,000時間程度で照度が1/2近くにまで低下するから、年に1回は球を取り替える事になる。
球の価格はワット数によらずほぼ一定なので、沢山のメタハラを使うよりは大出力を1灯か2灯で済ませた方が経済的だ。
ただしサンゴによって○×の球が良いとか、■□の球だと色揚がりするとか、色々あるのも事実である。
ここではアストロビームライト250W(8万円)+スーパークール115(4万円)を奮発しよう。


以上が最低限必要な機材である。
ここまでの合計額、約47万円だ。
え〜、そんなにかかるの〜 と言う声も聞こえてきそうだが仕方ない。
予算が厳しい向きには、250Wメタハラとクーラを後回しにして18万円の節約と行こう。
ただし後から絶対に欲しくなると言うか、必要になる。
それに、他にも底砂(サンゴ砂)が40Kg程度は最低必要だろうし、何と言ってもライブロックは欠かせない。
ライブロックは沖縄あたりのショップからBOX単位で購入するのが良いだろう。
この水槽サイズだと2BOX程度は最低でも必要である。
ショップなどで、石灰藻の殆ど付いていない白い岩を上質ライブロックなどと言って販売している所があるが、こんなものを買ってはいけない。
ライブロックのオーダ時には大型のものを多く入れて貰うようにして頂きたい。
細かなものを積み上げるよりは、大きなもので岩組みした方が楽である。


【カルシウムリアクタ】
カルシウム濃度やKHの維持に、カルシウムリアクタもあった方が良い。
液体添加剤(塩化カルシウム)でも良いのだが、手間をかけずに安定を狙うのならリアクタだ。
私はEHEIM-2222を利用してリアクタにしているが、マトモに買うと結構なお値段なのである。
【タイマー】
照明のコントロールなどを行うためのタイマーも必要だ。
水槽機器メーカの多チャネルタイプが使いやすい。
水流ポンプ制御もタイマで出来ない事はないが、専用の水流コントローラなども市販されているので、この辺りも考えた方が良いだろう。
【パワーヘッド】
水槽内に水流を作るための小型ポンプである。

水流を作るという事は、重たい水を動かすという事なのでパワーが必
要だ。

所がパワーのあるポンプは大きく重く邪魔になる。

この辺りの兼ね合いでパワーヘッドを選べばいいのだが、岩組などを
すると更に水流は起きにくくなるので、出来るだけ大型のものを使用
しよう。

自動首振り型のパワーヘッドもあるのだが、私の所では頻繁に首振り
拒否症に陥る。

【浄水器】
水槽の水はどんどん蒸発する。
それを補うために毎日水を補給しなければいけない。
量的には乾燥した冬場で数リットル/日程度だろうか。
水道水をそのまま補給しても良いのだが、水道水中の不純物はコケ発生の原因にもなり、重金属はサンゴの光合成を阻害する。
水槽から蒸発する水は、いわゆる純粋な水であり、不純物は水槽内に残る。
これを補充するために水道水を使用すれば、不純物は水槽内で濃縮される事になるのだ。
そこでRO(逆浸透膜)浄水器が登場するわけだ。
ただしコイツは単位時間あたり非常に少量の水しか排出出来ない。
なので補水用と割り切った方が良いかも。
全換水などの時には数日前から水をため始めるという覚悟が必要だが、その水をためておく容器だって必要になる。
ちなみにRO浄水器を使ったとしても、リン酸や珪酸などは少量ではあるが通過してきてしまう。
これが気に入らない向きはDI(イオン交換浄水器)を付ける事になる。


こうして機材がそろい水槽を立ち上げて安定すれば、何日かに一度のコケ掃除が必要な程度で、換水も2〜3ヶ月に一度程度で良いだろう。
水草水槽などより余程手間のかからない、無脊椎水槽なのである。
もっとも、ショップを回っては気に入った生体を買ってくるとか、メタハラを増設したいとか、スキマーをよりハイパワーなものに換えたいとか、そう言う欲求は相当強いと思う。
上に書いた組み合わせで水槽一式をそろえ、ライブロックやパワーヘッドを入れて、お気に入りのサンゴと少々の魚を入れるまでの総費用は60万円程度だろうか。
人工海水の素も買わなければいけないし、その他コケ掃除用具とか色々な小物、各種試薬もそろえたいから。


と言っても、最初から全ての機器をそろえる資金パワーがある人は多くはないだろう。
実際私にしても、60cm規格水槽に蛍光灯照明から始まり、メタハラを増設し、外掛け式のスキマーを増設し、90cm水槽にして更にメタハラを追加し、スキマーを大型ものにし、クーラを買い…と、長い道のりを経てきたものなのだ。
でもでもですよ、こうして回り道したという事は時間も金も相当ロスした訳で、だったら最初から(極端な話ローンを組んででも)長く使えるシステムにした方が余程得だったのではないかと、いや、これは今だから思える事なのだけれどね。
60cmとは言わないけれど、90cm規格水槽に外掛けスキマと安価なメタハラを組み合わせれば5万円程度で機材はそろうはず。
これでやってみて、長期飼育の自信が出来たら新たな水槽を立ち上げるという方法を否定するわけではないし、その90cm水槽を別の目的で活かす事だって出来る。
要するに先を見て物品購入を考えた方が良いという事だ。
うんうん、これ↑は自分自身に言い聞かせるべき言葉なんだけど。