今週の相場観

先週、下抜ければ86円台に突っ込むかとしたら木曜の東京時間に本当に下抜けた。
殆ど値の動かない状態で蓄積されたエネルギや怨念(!)は一気に下方向に噴出し、たった3分間で1円もUSDが下がった。
そして翌朝、つまり金曜の朝にはスパッと1円ほど円高に振れてあっさり85円台、そしてその約15分後には84円台となった。

85.00円が一つの目処ではないかと言われてはいたが、そこは単なる通過点にしかならなかった。
溜まったエネルギを噴出すべく、そのトリガとなったのはUAE問題だったとされる。
円高と言うよりはドル安、EUR/USDは1.5を超えていたわけで、一方でEUR/JPYは130円前後の水準だった。
14年ぶりという円高にマスコミも沸き、市場最高値の79円台までは落ちていくとも見方もある。
まあこうした無限下落説が出始めるところが相場の終点であるとも言われるのだがどうだろうか。

84.8円あたりまで下げた後はレートチェックの噂もあって86.2円あたりまで急激に戻した。
何と2時間あまりで3円近くもレートが動き、まさに乱高下の金曜の朝となったわけだ。
売買比率は、86円台では買いが85%前後あったのだが急落後には買い比率は77%程度に下がっていた。
損切ったのか切られたのか、或いは売りが増えたのか。

急降下はいわゆるセリングクライマックスというヤツで、ストップロスを巻き込み、諦めの手じまいが起き、売りが積み重なってどんどん落ちる。
もう少し、もう少し頑張れば耐えられると祈るような気持ちで価格を見つめていた投資家にもロスカットのメールが届く。
こうして急激な下落劇は売り物を全て消化し尽くし、そこが底になる。
今回のこの下げはセリングクライマックスといえるのだろうか。
まだ下げが足りなかったのではないのか。

昨年だったか、1日で8円も値を下げた日があった。
あれは金曜の夕方、欧州時間半ばだったっけ。
もちろん今の価格から8円も下げたら78円台であり、介入警戒というか介入せざるを得なくなるだろう。

100円割れの最初だった2008年3月の後にはその夏に110円台、2度目の急落で90円割れの後には101円といずれも10円ほどの戻しを演じている。
大きな下落の中の小さな反発が今回も起きるのかどうか。
10円の変化であれば目標は95円前後、これでもまだ100円に届かない訳で「そう言えばドルが100円なんて時代もあったよね」と言われるのではないかと思うくらいUSDは下がってしまっている。

下落要因としての一つはFOMCのドル安容認、日本政府の円高容認もあるが米国景気の回復と日本景気の低迷も無視できない。
米景気が回復に伴いインフレ傾向となれば実質的にUSDの価値は低下する。
一方で日本はデフレと言われているので円の価値は上昇する。
デフレで生産コストが安くなっても円の価値が同時に上がるので日本の貿易は決して楽にはならないばかりか、輸入物価自体が下がっても所得が低いのだから割安感もなくなる。

もっとも米景気の回復に伴って米国の金利が上昇すれば話は別だが、FRBは景気回復の遅れから低金利誘導を続けると言っている。
日本としては介入でも何でもしてドルを上げたいだろう。
しかしそれに米国は反発する。
当然である。
日本製品が米国経済の回復を遅らせる可能性が大きいからだ。
しかし日本の電子・機械部品は米国でも沢山使っているではないか。
それは大丈夫、多くの部品工場はもはや日本にはなくアジア各国に分散していて取引はUSDベースなのだ。

円高になれば輸入品は安くなる。
これはデフレに荷担する恰好になり、更に主要産業が輸出に頼っている以上日本経済を圧迫する。
企業収益が低下すると税収が減り、国債の増発は長期金利の上昇となって円買い要因になる。
米国の景気下落は恐らく今年がピークだっただろう。
日本はどうか。
来年が一番苦しい年になるのかも知れない。

藤井さんや民主党は円高がお好きなようだ。
円高は購買力を増やす効果があると言っている。
確かに一時的にはそうした効果もあるしエネルギコストの減少などメリットもあるが、しかしそれが続くとダメだ。
変化にはエネルギがあるが停滞にエネルギはない。
しかも円高停滞となると日本の主要産業は弱ってくる。
日本は無資源国であり、海外から部材を調達して加工しそれを売らなければ生きてはいけないのである。
つまりは日本国内で付加価値を付けるわけだが、円高になるとその付加価値を売ることが出来なくなるのだから苦しい。

今週の値動き予想だが、レートチェックが入れば下落はしないしそうでなければ再度84円台を狙いたいところではないだろうか。
上は88.5円、下は83円あたりなのかも知れない。