中華バラストを試す



中華バラストは何度も試しているが、2011年モデルと書かれていたので買ってみる。
お値段は送料込みで3千円だ。
なんと安い事か。
これでバラスト2個とバーナ2個が付いてくる。

いまや35W品は余り見かけなくなった中華バラスト市場だが、以前のテストでは35W品も55W品も何ら違いはなかった。
一説には55W品はバラストへの入力電力が55Wなので、バーナドライブ電力は45W程度だという説もあるが私の実験では35W版に[55W]のシールを貼っただけみたいな印象を受けた。

今回手に入れた物の能書きは「本物の55W」「自信があります」「高品質」「デジタルCPU搭載」だ。



写真を見ると消費電流が13.2V時に5.2Aと書かれている。
計算すると68.64Wであり、効率を8割とすると54.9Wがバルブドライブ電力となる。
ちなみに以前の物は12Vで3.8Aと書かれていて、55W品にもかかわらず入力電力が45.6Wとつじつまが合わなかった。
果たして今度は本当の55W品なのか?
それとも入力電力と出力電力の関係だけを訂正したのか。
あるいはあるいは、内部に抵抗でも入れて無駄に電力を食わせているだけとか。
そして「デジタルCPU」搭載は本当なのだろうか。
少なくとも私が知っている中国製は、DC-DCコンバータはTL494を使いフルブリッジ駆動にはNE555が使われていた。
他はごく簡単なディスクリート部品とアナログ回路のみであり、CPUなどは使われていなかったのである。

化粧箱はこれまでのものと大きな違いは無い。
バラスト自身も今までのものと余り変わっていない。



筐体も従来型同様だが、取りつけ金具は付属していなかった。
また電源コネクタには逆挿し防止のツメが付くようになった。
従来品だとコネクタを無理矢理押し込むと逆挿しが可能だったのである。
また内部には逆流防止FETまで実装されていて、逆差しトラブルが多かった事を伺わせる。

筐体温度105℃と書かれているが、内部のケミコンの最大使用温度が105℃なのだから、筐体温度はそれより20℃位低くなければおかしい。



とりあえず電源を入れるより早くバラしてみる。
内部のパーツも今までのものとは違う。
充填剤も従来の物とは違って発泡系な感じがする。

イグナイタのトランスも、DC-DCのトランスも違う。
DC-DCのドライバにはヒートシンクが付いている。
もしやホンモノの55Wなのか?!
期待が持てるぞ。



充填剤がポロポロと取れるので、ピンセットでつまみ出して除去した。
パーツの隙間までは面倒なので取らなかったがだいたいは解る。

SMD品が大幅に増えている。
足を曲げて裏返しにドライバトランジスタみたいなものが付いているのはご愛敬か。
このトランジスタはフルブリッジのドライバだ。
部品点数はかなり少なくなっている。



サブ基板はなく全てがメイン基板上に実装されている。
フルブリッジは表面実装のFETになっている。
トランスも小型になり、フライバックトランス方式ではあるが多少進化した感じがする。
スイッチング周波数は80KHz(従来型は約50KHz)とさほど高くはないが、トランスの巻き線は表皮効果を考えて細い線をパラに使っている。
ドライバトランジスタはAOT430で75V/80A品である。
スイッチング周波数のわずかな増加と効率改善等でトランスもトランジスタも小型化出来たと言う事か。
前回バラしたものより多少容量の小さなFETだ。
ちなみに前回バラしたものはSAMWINのSWP3205で55V/110A品でスイッチング速度はAOT430よりほんの少し速い。



フルブリッジは4N60、これは600V/4AのFETだ。
駆動周波数は約300Hzだった。



それでは電流を測ってみよう。
13.25V×3.167Aなのでバラストへの入力電力は約42Wである。
効率が以前の物の80%前後から86%あたりに良くなっていて、バルブドライブ電力は約36Wとなっている。
やはり表示をいじっただけだったのか。
恐るべき中国人!
つじつまの合わない部分を指摘されたら、内部はそのままで表示だけを直すというところが中国人魂である。



管電圧と管電流は交流なのでオシロで測る事になるが、簡易的にはDC-DCの出力電圧と電流を測っても良い。
これなら普通のテスターで測る事が出来るのだが、フルブリッジやイグナイタが多少損失を出すのでその分は減じなければならない。
上の二つのテスターがDC-DCの出力電圧と電流、下の二つが入力電圧と電流だ。
入力は13.14V×3.3A=43.36Wで出力が90.79V×0.415A=37.68Wである。 フルブリッジやイグナイタなどの損失が約1.5Wあるので、バーナドライブ電力は約36Wとなる。
なおバーナによっても(完全な定電力ドライブではないので)ドライブパワーは異なってくる。



ディジタルCPU(今時CPUは全部ディジタルだと思うんだけどね)とは一体何なのか。
使われているデバイスは大きく3つ、一つは管電圧や管電流のレベルを変換しているオペアンプだ。
端子数の多いのは↓で、フルブリッジ駆動をコイツがやっている。



足の少ないのが↓で、電流モードを有するPWMコントローラだ。
ドライバトランジスタのソース電流をモニタ出来るコンパレータを持っていて、中華バラストのスタンダードと言えるドライバトランジスタのソース電流で管電流を擬似的にモニタしようとする用途にぴったりだ。
定電力ドライブにはならないが定電流+定電圧みたいな、簡易的なバルブドライブは行える。

ここが解ればパワーアップ改造だろうがパワーダウン改造だろうが思いのままとなる。
なお55Wドライブ程度への改造は可能だが、上限がどこか(つまり破壊試験って事)は現時点では追求していない。
熱的にはかなり厳しい状態なのでトランジスタとトランスは筐体への放熱が必至だろう。



コイツは確かにインチキ商品である。
55Wを謳いならが、表示もそれっぽい値にしながら実際には35Wでしかない。
しかし送料込みで3千円なら許せるのではないか。
しかも中国製なのだ。
中国製に真実を求めても全く意味はない。

まあ、中国製だけれど高価なものは本物かなと6千円も出しちゃったというのなら頭にも来るだろう。
中国製は高いか安いかで中身が変わるわけではなく、中身は同じで価格に変化を付けているだけなのだ。

安物買いの銭失いとなるのは中国人を信じた側であり、騙される方が悪いとも言える。
だって中国の信頼性って元々ゼロでしょ?
そこに何かを期待するのが間違っている。
しかもこの価格の物に真実を求めちゃいけない。
国内だって産地偽装や賞味期限書き換えなどが普通に行われているのだ。
中国製工業製品はそれと同じだと思わないと。

バラスト電力を上げる事は中国人にだって可能だ。
ではなぜそれを行わないのか。
放熱設計などやれば出来る話だが、バーナが持たないのではないだろうか。
付属のバーナも35W品(表示は55W)に間違いなく、これを55Wドライブすると寿命が極端に短くなってしまう。



全体の回路構成というか作りも含めて、前回バラしたものより個人的にはこちらの方が好きだ。
DC-DCも多少進化しているし、SMD部品が増えてスマートだし、何よりシリコンが脆くてはがしやすい。

あ、CPUみたいな物は入っていなかった。
フルブリッジドライバみたいなものをCPUと称しているのか?もしかしたらHID点灯シーケンスコントローラかも知れないけど。

追記
ヒートシンクには意味があった。
ノーマル、つまり35Wで点灯させ続けた場合でもこのFETはかなり発熱する。
ヒートシンク無しでは連続動作は厳しいだろう。
ヒートシンク自体もどこかに放熱されているわけではなく、充填剤に囲まれているだけなので触れない程度の温度になる。
またトランスの発熱もかなりある。