妊娠したバッテリ


APCの無停電電源(UPS)のバッテリは、使用方法というか使用環境にもよるがだいたい2〜3年で寿命を迎える。
と書いたのはこちらの記事で、何度かバッテリを交換しながら使用している。
バッテリは秋月で買ったものなのだが、どうも納得できる寿命にならず、前回交換してから1年少しが経ったとき、それは起こった。
UPSを使用する、つまり停電頻度は非常に低いので、バッテリが勝手に駄目になっていく感じがする。
その後MRTGでUPSの温度等を監視するようにしたのだが、あるときそのグラフが異常を示したのである。
下がそのグラフで、ある時から温度が上昇してギザギザになっている。
温度が60℃以上になると内部のファンが稼働するため温度が下がるが、根本的な原因が排除されているわけではないので再び温度が上がってファンが回る。

これに気づいてUPSに触ってみると、なるほど暖かい。
いや、熱い。
バッテリを外そうとフロントベゼルを外して内部の鉄板に手を触れたら、それこそ火傷しそうな熱さなのだ。
ねじを外してその鉄板に手を触れないように外し、バッテリを引き抜こうと手を触れると、いや、手を触れられない。
このまま爆発でもするのではないかと思うほどバッテリが熱くなっている。
確かにこれだけ熱くなればファンも回るわけだが、ファンはデバイスを冷却するためのものであってバッテリを冷却するものではない。
なのでバッテリは相変わらずな温度になっているというわけだ。
熱いバッテリに手を触れずに引き抜こうとしても、今度はバッテリが熱で膨張していて引き抜けない。
ドライバでこじったりしながらやっと引き抜いたバッテリは妊娠状態で膨らんでいた。
温度は測らなかったが80℃くらいはあったと思う。
ちなみに鉛蓄電池は通常50℃以下で使うこととされていて、サーマルプロテクタなど市販品の温度もその程度だ。
なぜこんなに温度が上がるのか。
充電電圧は28Vで定電圧充電のようだ。
この状態だと充電完了でも1A以上の電流が流れていて、それは全て熱になる。
常に満充電状態を維持したい気持ちは分かるし、過充電に強い鉛蓄電池なのだが少し可哀想ではないのか。
せめて温度上昇時には電圧を下げる工夫があっても良いはずだ。
何て言っても仕方がない。
定電圧充電されているバッテリ温度が上がると熱暴走的に内部抵抗が下がって発熱が止まらなくなる(やがて電解液が蒸発して壊れ、電流が減る)のかも知れない。
シールドバッテリメーカによれば温度が10℃上昇すると寿命は半分になるとされているし、バッテリなどを大切にする?欧州車ではエンジンルームに隔壁を設けてバッテリルームを設置しているものが多い。
さてどうするか。
UPSの温度が上がるのは致し方ないことで、ファンを常時運転するとかバッテリをケース外に出しておく程度しか出来ない。
もう一つは充電終止電圧を下げることだ。
現在は28V(12Vバッテリあたり14V)となっているが、これを1V下げればバッテリにとってはかなり負担が下がると思う。
ではどうやって下げるのか。
まずは中身を見てみた。


なにやら随分部品があるではないか。
これを回路図なしでいじるのは厳しいなぁ。
で、回路図を探してみるがなかなか見つからない。
なかなか見つからなかったが最終的には見つけた。
http://www.upsclub.org/schem/APC/732/732Pschem.pdf
充電デバイスはASIC(オリジナルデバイス)となっていて、どうも同期整流か何かをしているのか、インバータ用のデバイス共用で動作しているようなのだ。
(IC14 捺印はAPC2020B 9845J)

このデバイスのそれっぽい端子というと15ピンのCHGADJがある。
オリジナルではGNDに落ちているが、名称からして充電電圧か何かを可変出来るものかも知れない。
と思ったが、GNDに落ちているのを切り離すのは面倒だ。
だったらレファレンスをいじっちゃうか。
というわけでC71と並列に27kΩを入れたところ充電電圧は26.3Vになった。
うーん、ちょっと低いかなぁ。
普通の鉛バッテリだと6セルで13.8Vだから12セルで27.6Vあたりが良いのかも知れないが、この際だから満充電より寿命優先と行こう。
これだと基板を外すことなく裏面で処理できるのでとても楽である。
いや、実はCHGADJ端子が気になって気になって仕方が無く、再度基板を確認した。
が、見える範囲ではNC(どこにも接続されていない)なのだ。
だが電位的にはGNDで、GNDピントの抵抗値もゼロな事から、ICの下の部品面で18ピンと接続されているのではないかと思う。
これをカットするためにはICの足をむしり取るか、いったんICを外さなければならない。
凄く気になることは確かなのだがそこまでする元気もなく、Ref端子誤魔化し作戦で様子を見ることにした。
※追記:CHGADJはGND=24V用 Open=12V用の可能性が高い
ちなみに28V時には1.15Aの電流が流れて32.2Wの発熱をしていたものが、抵抗の追加によって116mA、3.1Wの発熱へと激減した。
とりあえずこれで様子を見てみよう。
もしかすると新品のバッテリなら更に電流が少ないかも知れない。
ちなみにUPS的には充電率70%前後だと思っているようだ。
一つ不安なのは、このデバイスは充電だけではなくインバータ駆動も行っていることだろう。
リファレンスによって充電電圧を4%ほど下げたので、インバータ稼働時の電圧が変動するかも知れない。
一応改造後のテスト。
負荷、うーん、重い負荷は何かあるだろうかと周りを見回して掃除機に決定。
これを接続する。

負荷メータはそこそこ上昇した。
バッテリの代わりにDC電源をつないでみると、25.5Vで41.6A、約1kWの入力電力となった。
面白いのは供給電圧を上げるとエラーアラームが鳴ること。
これだけ電流を流したんだからバッテリ電圧が28Vはおかしいんじゃないの?って所なのだろう。

この状態で運転し続けると内部というか、バッテリ接続の線も含めて結構な発熱になる。
当然ファンは連続稼働だ。
ちなみに(ディジタルテスタで測っただけで電圧変動が観測され正確ではないが)出力電圧の改造による変動は分からなかった。
鉛バッテリの正しい充電方法と終止電圧はどうすればいいのか。
このUPSの場合はトリクル充電になっているわけで、安価で簡単ではあるがベストな方法ではないと思う。
他のUPSの場合のバッテリが長持ちするのに、何故これが駄目なのかはバッテリ周囲温度かも知れない。
静的消費電流が多いので内部は40℃程度になってしまうのだ。
改造後の様子はblogに書いている
http://www.fnf.jp/blog/2009/10/fnfblog2295.html
http://www.fnf.jp/blog/2009/10/fnfblog2295.html
http://www.fnf.jp/blog/2009/10/fnfblog2325.html
http://www.fnf.jp/blog/2009/10/fnfblog2353.html
http://www.fnf.jp/blog/2009/10/fnfblog2357.html
http://www.fnf.jp/blog/2009/10/fnfblog2363.html
http://www.fnf.jp/blog/2009/11/fnfblog2411.html
バッテリ充電に関するレポートなどをリンクしておく。
http://industrial.panasonic.com/www-data/pdf/ACG4000/ACG4000PJ4.pdf
http://www.geocities.jp/fkmtf928/Report_BATT_charge.html