Anker PowerWaveを分解する

スマートフォン

かなり以前に入手したワイヤレス充電器がある。
そもそもはワイヤレス充電器が欲しかったわけではなく、超安価に購入したスマートフォンホルダーにワイヤレス充電機能が付いていたものだった。
当時ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは所有していなかったので、単なるスマートフォンホルダーとしてのみ使用していた。

2021年7月にXperia1 Ⅲを購入したことでワイヤレス充電対応スマートフォンが入手できたことになり、このワイヤレス充電器を試してみた。
勿論正常に動作したというか、なかなかの過熱具合は正常と言える範囲かどうかが疑われるほどだった。
何しろ60℃にも達したのである。

ノーブランドワイヤレス充電器

Qi規格の充電器なので、150kHz程度のドライバとコントローラ、コイルが入っているだけだ。
共振用のコンデンサは積層セラミックが使われているが、最近の製品はフィルムコンデンサを使う場合が多い。
積層セラミックコンデンサは(圧電体なので)音が出る事や、大容量のものに関しては温度特性などの問題もある。

充電中に温まるならともかく、充電完了後も発熱は続いた。
内部を見てみると発熱箇所はコイルドライバのFETだった。
そこで、このFETに銅板を貼り付けてみた。

銅板はコの字型に曲げてケースの裏面にも出した。
しかしこの程度では放熱量が足りず、銅板が触れないほど熱くなるのみだった。

結局このワイヤレス充電器は使うのを中止し、AnkerのPowerWaveを入手した。

Anker PowerWaveの発熱

AnkerPowerWaveの発熱は、ノーブランドのワイヤレス充電器よりはかなり少ないものだった。
ただし室温約28℃での充電中には40℃程度まで温度が上がり、強制空冷したくなった。

PowerWaveの下にヒートシンクを置いてみたが、これは意味が無かった。
ただしUSB扇風機(写真左に見えるもの)との高さ合わせの台として使用している。

USB扇風機で風を送ることで、充電中のバッテリー温度は30℃を超えなくなった。
Li-ionバッテリーは高温(35℃以上)に弱く、高温下での充放電ではバッテリーの劣化が加速する。
一部スマートフォンではバッテリー温度が40℃を超えると、満充電未満で充電を中止する制御になっている。

AnkerPowerWaveはどこが温まっているのだろう。
ドライバーのFETだろうか?
そこで分解して動作させてみることにした。

PowerWaveは丸い円盤状のケースで、上面と下面はゴムシート的なものが貼られている。
本体は上下に分割できるが、裏面から上面方向に4本のネジで止められている。
3本のネジは周辺部に120度間隔で、残りの1本は中央にある。

ネジを外して隙間にマイナスドライバーを突っ込めば、パチンと分解できる。
内部はコイルと、基板は裏面が見えている。

いくつかのQi送電分を見たが、コイルはどれも共通のようだ。
リッツ線の10ターン巻きがスタンダードと言うことだろうか。

2本のネジを外すと基板が取れる。
コイルは軽く接着されているだけなので、引っ張れば取れる。

Qiのチャージコントロールデバイスはワンチップのもの、その他にPWMモータドライバのICが2個、FETも付いている。
モータドライバでPWM制御を行い、無負荷時の励磁電力を小さくしているのかも知れない。
中華ノーブランド送電部では、常にフルパワーでコイルをドライブしている。
フルパワーでドライブしても受電側がパワーを吸収しなければ(本来であれば)損失は出ないはずだが、FETが激しく発熱することを考えると、一概にそうとは言えないようだ。

裸の状態でスマートフォンの上に置き、充電モードにしてみる。
この状態で各所に指を触れ、温まっている部分を探る。

FETはほんのり温かい程度、意外だったのはコイルもほんのり温かいことだった。
モーターにしてもソレノイドにしてもトランスにしても、コイルものは設計に余裕があればさほど温まるものではない。
もちろんハイパワーモーターのように水冷で使うものもあるが、コイルが温まるとは思わなかった。
ノーブランド品はFETが余りに高温になるので、コイルの発熱には気づかなかった。

コイルに金属製のヒートシンクを付けるわけには行かず、ヒートシンクを付けるのであれば間に高熱伝導シリコンなどを挟む必要がある。
発熱量はたいしたことはないので、筐体に放熱口を開けてチムニー構造を作るなどすれば対流冷却が期待できる。
ただ現状サイズやデザイン面などで不利になることは否めず、むしろクーリングファン付きが主流になりつつある。

中華Qi受電部を開けてみた。

Qi受電部はAliexpressで購入すると200円くらいだ。
いくつか購入してみたが、感度が異なっていた。
Qiは受電部から送電部に信号を発するのだが、Qi受電部によってはその信号が弱い。
正確に位置合わせをすれば充電モードに移行したが、ラフな位置合わせでは反応しないものがあった。

ワイヤレス充電器の効率

コイル同士を密着させた場合の送電効率は90%以上と言われる。
しかし実際にコイル同士の位置を正確に合わせることは出来ず、更にはスマートフォン側も送電器側もケースがあるので、その厚みの分だけコイル同士が離れる。

コイル同士が離れると漏洩磁界が増えるので、その分がロスになる。
受電側は受電電力を送電側に報告する。
受電電力が不足している場合は送電電力を上げる制御になるが、送電電力を上げても受電電力が増えない場合は、伝送ロスが過大と言うことで送電を中止する。

厚さ2~3mmのケースを使ったときの伝送効率は60%程度になると言われる。
公称出力5WのQi送電部の最大消費電流が2A前後なのは、伝送効率を考えると出力電力の2倍くらいの消費電力が必要だからである。
Ankerの10W出力のQi送電部の入力電流は12V1.5A(18W)となっている。

AnkerPowerWave10を5V/2Aの電源で使用した場合に、スマートフォン側のアプリで充電電流を見ると400mA~600mAだった。
スマートフォン自体の消費電流が500mA前後だとすれば、ほぼ5W位の供給能力だと言える。

Xperia1 IIIは最大30W充電で、50%までの充電を30分で行えるとある。
30Wを給電するとバッテリーには7A以上の充電電流を流すことになる。
Xperia1 IIIのバッテリー容量は4.5Ahなので2CA近くの充電電流と言うことだ。

一方でワイヤレス充電では最大15Wであり、ワイヤード充電の約半分でしかない。
実際には送電効率があるので15Wの電力を送電することは難しい。
そう考えると、急速充電が必要な場合はケーブル接続すべきだと思う。
発熱などを考えても、ワイヤレス充電は充電時間がかかっても良い場合に使用すると割り切った方が良い。

phoneArenaは、OPPOのワイヤレス急速充電でバッテリーの劣化が早まるとしている。

OPPO has apparently confirmed that the 40W tech degrades a battery to 70 percent of its capacity in the same cycles 15W charging would to 90 percent.

海外では充電時間の短さが評価される傾向にある。
このため、各メーカ共に急速充電に力を入れている。
日本ではACアダプタを持ち歩いて店舗などで充電したり、あるいはモバイルバッテリーを持ち歩く人が多く、充電時間そのものは余り重視しない傾向にある。

バッテリーと温度の関係

Li-ionバッテリーは使用温度範囲が余り広くはない。
このためEV(電気自動車)でもバッテリークーラやバッテリーヒータを使うなどしているモデルもある。
特に高温下での使用では劣化を招きやすい。

厳密な比較を行ったわけではないのだが、以前にASUSのスマートフォン2台を、片方はアルミ製のスマートフォンスタンドに、もう1台はプラスチック製のスマートフォンスタンドに置いていた。
アルミ製スマートフォンスタンドに置いていた方は大丈夫だったのだが、プラスチック製スマートフォンスタンドに置いていた方は2年ほどでバッテリーがかなり膨らんでしまった。

当時余り温度に関して気にしていなかったのだが、アルミ製のスマートフォンスタンドはスマートフォン本体の放熱に一役買っていたのではないかとも思う。

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