ダイソンのバッテリーを無理矢理充電する

家電製品

前回の記事ではバッテリーを殻割してセルバランスを整えてみた。
しかしインジケータは赤の点滅でありバッテリーは復活しなかった。

そこでバッテリーユニット内部のBMS基板を交換して復活させた。
復活させたバッテリーはDC58~V6までで使われているものだ。

今回はそれ以前の、DC35/DC45のバッテリーである。
このバッテリーにはLEDインジケータは付いていない。
ケースにネジはないので溶着か或いは分解不可能はほど硬く嵌合しているものと思われる。

このバッテリーは充電器に接続してみたのだが充電電流が流れなかった。
充電制御回路が何かのエラーを検出して充電をストップさせていると思う。
前回のバッテリー解体の経験から、セルバランスの異常も考えられる。

そこでバッテリーを分解することなくセル電圧をチェックしてみることにした。
前回バラしたバッテリーでセルの位置を見ながら、バッテリーケースに穴を開ける。
ここから線を突っ込んで電圧をチェックしてみる。

バッテリーのセル電圧を測る

型番は異なるが、サイズは同じなので参考になる。
バッテリーに穴を開けてしまわないように、慎重にドリルで穴を開ける。

ここから線を突っ込んでセルの電圧を測るのだが、特に異常は無い。
全てのセルが1.7V付近の電圧だ。
ただしこの電圧は明らかに低すぎる。
通常ここまで電圧は下がらず、大抵は放電終止電圧を2.5V付近としている。
もしかして放電終止電圧以下の場合は充電制御が働かないとか?

この穴から線を突っ込んで無理矢理充電しても良いのだが、もう少しスマートな方法を見つけた。

あくまでも推測ではあるが、下の回路のようになっているのではないだろうか。
(分解して誤りだと分かる→過放電防止回路は入っていない)

少なくとも充電端子に電圧をかけただけでは充電電流は流れない。
バッテリー異常を検出すると充電も不可能になる訳だ。
しかし充電端子のマイナス側と負荷側のプラス側にはバッテリーの生の電圧が現れている。
(分解して誤りだと分かる→負荷端子にバッテリー電圧そのものが現れている)

バッテリーを強制充電する

と言うことで、ここに電圧を加える事にした。
充電端子側に合うプラグがあれば良かったのだが手持ちがなかった。
そこでギボシ端子を開いて使う事にした。

ただこれ、注意しないと短絡する。
ダイソン側のジャックはセンターピンが+なのではなく、センターの黒い樹脂の外側の電極が+だからだ。
ちゃんと嵌合するプラグを入手した方が良い。

プラス側はファストン端子を使った。

バッテリー直結になるので定電圧電源の線圧設定は正確である必要がある。
6セルなので4.1V×6=24.60Vに設定ししばらく充電する。
当然ながらセルバランスは取れないので、セル電圧が大きく異なる場合は1本ずつ充電する必要がある。

とりあえずこの状態で充電電流が流れなくなるまで充電した。
この状態で掃除機が稼働することは確認した。
次に純正充電器に接続してみる。
ACアダプタのLEDは点灯した。

成功!

強制充電以前はゆっくり点滅(バッテリーエラー)だったので生き返ったかな。

しばらく充電すると充電完了となりLEDは消灯した。
掃除機も正常に使用できる。

調子よく行ったので他のバッテリーも同様に充電してみた。
最初は定電流モードになり、やがて充電電流が減少して満充電となった。
だがこれを掃除機に接続しても掃除機が動作しない。
バッテリー以外の部分が壊れていると言う事か。

されに別のバッテリーは充電電流が流れないと言うより、満充電なのだ。
満充電でも掃除機は動作しない。
バッテリーケースに穴を開けてセルバランスを見てみたが、全て4.1Vで正常だった。

強制充電で生き返るのは運が良い場合だけ、と言うことか。

駄目なバッテリーを分解する

ならば駄目なバッテリーをバラしてみようではないか。
これは溶着されているという話なのだが、隙間をコジってみる。

接着されている感じはしないが、ビクともしない。
裏側もコジる。

くっついているとするとコネクタの付いている部分辺りだが、そこは隙間が狭いのと下に基板が見えるのでドライバーを突っ込めない。
仕方が無いので上下部分から攻めて、何とか引き剥がす。

コネクタを最初に外さなければいけなかった。
配線が切れてしまった。
たぶん接着はされていないと思うのだが、非常に固く嵌合している。
バッテリーユニットを引っ張り出すのも一苦労だった。

ここで誤りに気づく。
掃除機側に接続する端子はバッテリー直結だった。
電圧を測った時に接触が悪かったか何かで勘違いしたのだ。
放電保護回路はバッテリー側には入っていない。

充電できない或いは掃除機が稼働しないバッテリーも、電圧的には約24Vの電圧があり正常だ。
回路のどこかが壊れる可能性は低く、何かのエラーを検出してエラー信号を出しているとしか考えられない。
基板の裏面にもデバイスは沢山付いている。

ATTINY2313-20MUは最大20MHz動作のCPUのようだ。

バッテリーの端子に電圧が加わっているのだが掃除機は稼働しない。
バッテリーと掃除機はパワー系コネクタの他に3本の線が接続されており、そこで何かをやりとりしている。

謎の端子の謎を暴く

DC35の消費電流の測定が面倒なのは、この信号線を制御しないと掃除機が稼働してくれないためである。
バッテリーは、少なくとも電圧を見る限り異常は無い。
もっとも容量が減少している可能性はあるが、DC74のバッテリーのようにセルバランスが崩れている風でもない。

バッテリーの実容量を測ってみたいところだが(負荷抵抗とデータロガーを付けるだけだけれど)、現時点では測ってみていない。
DC74のバッテリーもセル電圧を正常にしてもエラーになってしまうわけで、この辺りの制御が謎である。

謎の解明には信号レベルを測ってみるしかない。
まずは解体したバッテリーから端子部分を取り出す。
でもこれ、+端子が黒線なんだなぁ、おかしいでしょ?
百歩譲って+が赤でなかったとしても、黒はGNDでしょ。

DC45までのバッテリーの端子と、DC58以降では+/-の位置が逆になっている。で、設計者は共通の指示書を出したからプラス側が黒になっちゃったとか?

線が短いので延長し、エクステンションを作る。

電圧を測ってみると、トリガボタンを引かない時には全てが0Vである。
トリガボタンを引いてモータが回ると、AとCはほぼ電源電圧である22.5Vに近い22.4VでBだけは2.4Vを示した。

掃除機のトリガボタンを引くと掃除機からバッテリーに電圧が印加され、その結果としてバッテリーが掃除機に電圧を返すのか?

2.4Vはアナログ信号なのか?
ロジック電源が5Vだとすれば、デューティ50%に近いディジタル信号?
そこでオシロでも観察してみた。

トリガボタンを引くとまず5Vとなり、その後約20ms周期で矩形波が出力される。

では、駄目なバッテリーはどんな電圧になるのだろう?
こちらは数百msごとにHiとLoを繰り返していた。

そこでもう一つ実験する。
信号は正常なバッテリーから出力させ、掃除機の電源自体は駄目なバッテリーに接続する。
こうすることによって掃除機は正常に稼働した。

DC58以降のバッテリーもそうなのだが、セル電圧が正常でも電圧が出なくなりエラー表示になる。
ロジック部の故障とは考えにくく、まるでダイソンタイマーが働いたかのようだ。

ダイソンはバッテリー寿命を2年程度としている。
そして新製品のサイクルも2年くらいだ。
長く使われては新製品が売れないから、と言うわけでは無いのかも知れないが、どうにも納得が出来ない。

使えなくなったダイソンの純正バッテリーは捨てずに、中華互換バッテリーを買って使う。
その中華互換バッテリーが駄目になったら、ダイソン純正バッテリーをバラして18650を移植するのが良いような気がする。

Li-ionバッテリーの劣化判定を行う手法はある。
内部抵抗をDCあるいはACで計測する方法や、電流波形と電圧波形を比較する方法などがそれだ。
これらは高信頼性を要求されるEV用や家庭用蓄電池などで使われる例もあるが、多くはLi-ionバッテリーを診断する計測器で使われる。

それをバッテリーユニットに組み込むだろうか?
バッテリーが使えなくなったら寿命ですよで、掃除機用としては問題が無い。
多くのバッテリー駆動電動工具などでも、或いはスマートフォンでも内部抵抗判定などは行っていない。

電池容量はどの程度残っているのか?
MAXモードでの連続稼働実験をした。

消費電流を測る

動作電流も計測した。
ブレているのはご勘弁を。
MAXモードでは約12Aが流れたので、モーターへの入力電力は約240Wだ。
ダイソンの公称値は200Wで吸い込み仕事率は65Wと当時公表されていた。
しかしその後吸い込み仕事率が公表されなくなる。
ダイソンでは、公表値を保証できなくなったためだとした。

ノーマルモードでは約5Aなので100Wである。
ノーマルモードの吸い込み仕事率は28Wと公表されていた。

連続動作時間はMAXモードで約7分だったので、バッテリーは正常に思える。
連続動作でバッテリーは約40℃まで発熱した(室温約25.2℃)。
温度計がダイソンの吹き出すゴミで汚れた…

連続動作実験はトリガボタンを束線バンドで固定して行った。

掃除機側に低電圧監視が入っているわけだが、これがいったん働くと再度電圧の高いバッテリーを接続しないとリセットされない。
いったん動作を停止しても、別のバッテリーを接続して動作させれば、電圧のある程度下がったバッテリーを接続して動作を継続させることが出来る。
たぶん、一瞬でも下限電圧を割ると動作を停止するような制御なのだろう。

これは回転ヘッドに負荷がかかったなどでも動作を停止してしまうことになる。
少なくとも数十秒くらいの平均値で見てくれれば良いのだが、制御はそうはなっていないのかも知れない。

バッテリー電圧が約17V(セル電圧が約2.8V)まで下がると動作を停止する。
ただし動作を停止して負荷がなくなると、バッテリー電圧は19V付近まで戻る。

掃除機も分解する

掃除機側もバラしてみようか。
これは破損品だったので、心置きなく分解できる。
なおモータ後部のカバーは、接着こそされていないが並大抵の力では取れない。
はめ込む時には力を入れれば入るが、それを外そうとすると傷だらけを覚悟する必要があるのはバッテリーと同様である。

グリップ部分にあるのがバッテリーマネジメント系だろうか?

モーター背面はモータードライバだろう。

MAXスイッチ部分にも小さな基板がある。

モータードライブ基板を外してみた。
ドライバICは品番を読むことが出来なかった。

ドライバーデバイスは4個付いている。
Hブリッジを構成しているものと思われる。
デバイスはBSC030N03LSでピーク100Aのドレイン電流を許容するN-CHのFETだ。

モータは2極だ。

両方の界磁コイルは直列に接続されている。

インペラ部分は接着されている非分解構造である。
他の樹脂パーツと違っい、固くて脆い。
成型誤差や温度特性などを重視したものかも知れない。

下の写真はターボチャージャーのコンプレッサインペラーだ。
https://www.nc-net.or.jp/company/89586/product/detail/56749/

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コメント

  1. 小林 より:

    解析ありがとうございます。充電電圧の回復が遅いとアラーム出してくるのでしょうか?

    • FnF より:

      充電電圧の回復が遅いとは、バッテリーに負荷がかかって電圧がドロップし、その後負荷がなくなってバッテリー電圧が上昇するまでの時間が長いと、という事でしょうか。
      BMS(バッテリーマネジメントシステム)的には、一瞬でも放電下限電圧を下回ると20msの信号が出なくなると思われます。
      その後充電するなどして、設定された電圧を上回ると、再び20msの信号が出ようになります。

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