ダイソン掃除機の吸い込み仕事率と電力利用効率

家電製品

吸い込み仕事率はJISによって性能表示が義務付けられているので、当初ダイソンはこれを公表していた。
しかし公称値を保証できないとして、その後公表しなくなった。

騒音値は公表が義務づけられているものではないが、JISではハンディー型で消費電力が1kW以下のものに関しては65dB以下である事を規定している。
ダイソンは騒音レベルを公開していないが、テスト機関などによる計測ではおおむね80dB~86dB付近となっている。
これは規定値より15dBほど高い値であり、ダイソンはうるさい、夜間は使えないと言われる理由だ。

吸い込み仕事率と電力利用効率

全てのモデルではないが、当時ダイソンが公表していた吸い込み仕事率と、実測による消費電力、それから求めた効率を調べてみた。
消費電力の計測は、バッテリーではなく定電圧電源を用いた。
吸入負荷により消費電力変動があるので、全て無負荷状態(DC68以降はコットンフィルタも外した)で計測した。

消費電力公称出力吸い込み仕事率電力利用効率
DC34通常:102W
MAX:262W
200W通常:28W
MAX:65W
通常:27%
MAX:25%
DC35通常:100W
MAX:264W
200W通常:28W
MAX:65W
通常:28%
MAX:25%
DC45通常:105W
MAX:268W
200W通常:28W
MAX:65W
通常:27%
MAX:24%
DC68通常:126W
MAX:418W
350W通常:28W
MAX:100W
通常:22%
MAX:24%
DC74通常:128W
MAX:433W
350W通常:28W
MAX:100W
通常:22%
MAX:23%
V6通常:127W
MAX:430W
350W通常:28W
MAX:100W
通常:22%
MAX:23%
V7通常:112W
MAX:428W
350W通常:21W
MAX:100W
通常:19%
MAX:23%
V8未測定425W通常:28W
MAX:115W
V10未測定525Wエコ:13W
通常:28W
最大:130W

フィルタバッグ式掃除機の電力使用効率は50%~60%であるのに対して、ダイソンでは22%~27%(キャスター付き商用電源モデルで28%)と低い。
渦を作るためにモーター出力の約半分くらいのパワーを使っているからだ。

更にモデルごとに通常モードの電力利用効率が下がっていることが分かる。
DC45まではサイクロンユニットが6個であり、その後15個に増やされている。
何とかしてゴミ分離能力を上げたかったのか、しかしサイクロンユニット数を増やせばそこに使われるパワーも必要になる。
これが特に風量の少ない通常モードでは、効率低下の要因になったのではないのか。

ダイソン掃除機が優れていると思わされる理由にCMのキャッチコピーがある。

  • 他のどの掃除機よりも確実にゴミを吸い取ります
  • コード付き掃除機よりも多くのゴミを吸い取る
  • 吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機
  • 最も多くのハウスダストを取り除く布団クリーナー
  • 他のコードレスクリーナーの 10倍の吸引力

吸引力が変わらないというキャッチコピーは日本では使われているが、イギリスでは誇大だとして使用を禁じられた。
実際にはフィルタが詰まってしまうので吸引力が徐々に低下するからだ。

他社の掃除機より優れていると印象づけると共に、新しいモデルほど優れた特性を有しているかのような勘違いも誘う。
実際には上の表の通り、現時点で4種類のものしか存在していない。

バッテリーはV8までが18650の6本直列となっている。
18650が2Ah程度として、45Wh程度だ。
V10では7本直列となり、52Wh程度になった。

全てのモデルに共通する構造と原理

クリアビンと呼ばれるゴミが溜まる部分、見える部分に溜まるゴミはメッシュフィルタで、サイクロン筒の方に吸い込まれるのを防止している。
クリアビンの中にも渦は出来ているが、この渦を作っているのは吸入口の角度そのものである。

中心部にあるサイクロン筒と、クリアビンの渦は全く関係が無い。
クリアビンの渦はMAXモードにするとそこそこ強くはなるが、通常モードではさほど強いものではない。

渦が弱いとゴミが内部に吸い込まれてしまうが、メッシュフィルタが大きなゴミが吸い込まれないように阻止している。
綿埃などや泥汚れなども、このメッシュフィルタに張り付く。

メッシュフィルタを通過してしまったゴミを、複数あるサイクロン筒で分離する。
DC45までは6個、その後15個、14個と変更された。
サイクロン筒内は10万Gの遠心力でゴミと空気が分離されるとダイソンは言う。
分離されたゴミはクリアビンの中央部(外部からは見えない)に溜まる。

使ってみると、確かにこの内側の部分にもゴミは溜まるのだが量は多くは無い。
殆どはクリアビンから見える部分に溜まる。
しかしモーターパワーを食っているのは複数個あるサイクロンユニットなのだ。

国産サイクロン掃除機

国産のサイクロン掃除機の出始めの頃は、いわゆるクリアビンの空気流と同じ原理のゴミ分離が行われているに過ぎなかった。
ダイソンのゴミ分離が国産のサイクロン掃除機よりも優れていたのは、2段目のサイクロン機構があるためだ。

しかし最近の国産サイクロン掃除機は、いずれもダイソン同様の構造を採るようになった。
しかもメッシュフィルタの二重化や、サイクロン筒数を欲張らない設計などでゴミ分離能力を高めている。

東芝の場合

東芝の掃除機では「お掃除の最後まで長持ち」と謳っている。
掃除の最後までではなく、1ヶ月くらいは長持ちしてほしいものである。

Panasonicの場合

Panasonic製はゴミ分離能力の向上で、フィルタ掃除インターバルの延長を売りにしている。
PanasonicのMC-SR570Gは250Wの消費電力で60Wの吸い込み仕事率だ。
従って電力利用効率は約24%と、ダイソン並の低さになっている。
ゴミ分離能力を上げようとすれば効率が下がるのは致し方ない。

サイクロン構造とフィルタの違い

~DC45まで

DC45までは6個のサイクロン筒と大型のコットンフィルタが使われている。
このフィルタは表面積が大きく、厚みがあり、ゴミ集塵能力が高い。
メッシュフィルタはプラスチックの成形品で目は粗い。
分解清掃した感じからすると、サイクロンによるゴミ分離能力もさほど低くはないと思った。
内部構造が簡単なので内部に付着する汚れが取れやすく、エアブロウや水洗によって綺麗にする事が出来る。
DC34→DC45で吸引力が2倍になったとしているが、モータや吸い込み仕事率は変わらない。
回転ブラシの消費電力がDC34用→DC45用で2倍近くになったので、これを以て2倍と称している可能性もある。

~DC74まで

DC74までもほぼ同一構造である。
メッシュフィルタはプラスチックの成形品から、プラスチックのメッシュフィルタ(網戸のような感じ)になり、メッシュフィルタによるゴミ分離能力の強化が感じられる。
サイクロン筒は15個に増やされ、コットンフィルタは円筒状になって表面積が縮小した。
それによる通気抵抗の増大を避ける為、DC45までのフィルタより大幅に薄くなった。
しかしフィルタの有無で違いが分かる程度の吸気抵抗がある。
サイクロンによるゴミ分離能力はDC45までのものより低いと思われ、フィルタの詰まりが早く、内部の汚れが激しい。
サイクロン筒が2段構造になり、内部が複雑になった。
このため水洗で汚れが落ちにくい部分が出来た。
DC45に比較して吸引力が20%アップしたとされるが、モーター出力はそれ以上に増加している。
数の増えたサイクロンによる消費パワーが増えたためか。

V6

DC74にポストフィルタを付けたものがV6である。
サイクロンのゴミ分離能力の低さ、薄くしたコットンフィルタによって、ゴミが集塵できずに排気に出て来てしまうことの対策だと思われる。
形状を変えずにポストフィルタを付けるようにしたため、MAXボタンも消耗品であるフィルタユニットに付けざるを得なくなった。
この為ポストフィルタの価格が上がった。
ポストフィルタはHEPAフィルタ準拠と言う事で目が細かく、詰まりやすい。
ポストフィルタの表面積もさほど大きくはなく、集塵能力の低さと相まって詰まりやすい。
新品のポストフィルタでも、動作させながらそれを装着しようとするとかなり抵抗を感じる。
プリフィルタで取り除けなかった汚れをポストフィルタで取ろうとするわけだが、ポストフィルタに引っかかる汚れはモータ部を通過してくる。
そのためモータ周辺は細かな埃が付着する。

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V7

V6のポストフィルタ形状を再設計したものである。
メッシュフィルタはメタルになり、更に細目になった。
吸気抵抗軽減のためか、メッシュフィルタの直径が大きくされた。
ポストフィルタは、フィルタ表面積の拡大によって清掃頻度を減らし、MAXボタンの再配置によってコストを下げた。
クリアビンの構造などもそれに合わせた変更が行われているが、ゴミ捨て(クリアビンの開放)などの操作性が悪化した。
V6のポストフィルタよりは排気抵抗が小さいとは思うが、それでも動作中に装着すれば明確な抵抗を感じる。
ポストフィルタが汚れると、行き場を無くした排気はバッテリーケースの方から抜けようとし、グリップ内部も埃だらけになる。
メッシュフィルタの強化やポストフィルタの強化、ダイソンはサイクロンによる分離能力の限界を感じ、フィルタ強化に走った。

V8

モーター出力の増加とサイクロン数を15個→14個に減らした。
回転ブラシヘッドもV7/V8辺りから変化し、高騒音となった。
カーペットなどを掃除する分には良いかもしれないが、集合住宅で床掃除は躊躇われるレベルである。
余談ではあるが、ルンバ870以降のゴムブラシも相当な騒音を発生する。
ダイソンの回転ブラシヘッドもルンバのゴムブラシも、畳や絨毯に対する攻撃性がかなり高い。
吸引力が低いことを回転ブラシでカバーする手法を強化した形だ。

V10

バッテリー容量増加、モーター出力増大、大幅な構造変更が行われた。
V8まではサイクロンで分離されたゴミは重力で下方に落ちる構造だったが、V10ではサイクロン筒の向きが水平になったため、ゴミ分離が悪化したと言われる。

V8までは吸気パイプからストレートにクリアビンに導かれ、クリアビン入り口の導風板で一次渦が作られる。
クリアビンの中央に吸気パイプを付けるのではなく、オフセットすれば更に効率は上がるが、デザインや重量バランス的に難しいのだろう。

V10では渦の方向と90度異なる側から吸気が来るので、クリアビンの中で吸気が90度曲げられ、更に渦の方向に向かって90度曲げられる。
吸気はクリアビン中央から吹き出されるので、その吸気がクリアビンの壁に当たり、渦も出来にくくなる。

新しいデザインを求めた結果だとは思うが、気流と抵抗からすれば従来モデルの方が合理的だ。

V10のフィルターの汚れるスピードは「2ティアーラジアルサイクロン」を搭載していたDC62~V8より明らかに早く感じた。クリアビンが直線的に配置されて空気の流れが効率的になったものの、掃除をしてる際はクリアビンが斜めになっているので、溜まったゴミが飛散しやすいのかもしれない。

https://makita-cleaner.com/dyson-cyclone-v10-review/

ダイソン掃除機はフィルタが命

ダイソンの掃除機はメッシュフィルタ→サイクロン分離→コットンフィルタ→ポストフィルタと、3つのフィルタで構成されている。
メッシュフィルタはDC45までは成形品、V6までが樹脂製のもの、V7ではより細目化の為に金属製にすると共に、直径を大きくして表面積を確保した。
クリアビンに溜まる汚れは、このメッシュフィルタによって分離されたゴミだ。

メッシュフィルタを通過した微細なゴミはサイクロンで分離される。
サイクロンで分離されたゴミはサイクロンユニットの中央の筒内に溜まり、クリアビン外側からは見ることが出来ない。
クリアビンの底部を開けてゴミを捨てる時に、中央部に溜まった微細なゴミも一緒に捨てられることになる。

実際に使ってみると分かるが、ゴミの多くはメッシュフィルタで分離されたものであり、サイクロンによって分離されたゴミが意外に少ないことが分かる。

ダイソンの掃除機は、当初はサイクロンによる分離能力に頼っていた。
しかしV6以降ではフィルタの強化が主に行われていて、サイクロン掃除機とフィルタ式掃除機のハイブリッドと言える構造になっている。

サイクロンによるゴミ分離には限界があり、そこを通り抜けたゴミがコットンフィルタで集塵される。
コットンフィルタの汚れ方とサイクロン分離されたゴミの比率からすると、2割くらいのゴミはサイクロンで分離できずにコットンフィルタに到達するものと思われる。

このコットンフィルタが十分に機能すれば排気は綺麗になるのだが、フィルタの表面積や通気抵抗の関係もあってか、このコットンフィルタも埃が通り抜けてくる。
そこでV6以降は、モータの排気側にポストフィルタを付けて、通り抜けてきたゴミを集める。
ポストフィルタに到達する汚れはモータ内を通過するものであり、当然モータ系も汚れる。

こうして何段階にもフィルタを重ねることで、ダイソンの掃除機はゴミを分離する。
しかしその通気抵抗は無視できるほど小さくはない。
これに比較すると不織布バッグ方式の掃除機は、簡単な構造で吸引力も強く、内部の汚れも皆無で排気も綺麗なのだから凄いなと思う。

10年ほど使った掃除機を分解したことがあるのだが、意外に綺麗だった。
シロッコファンなど埃だらけではないかと思ったのだが、薄汚れている程度だった。モータの前部に付けられていたフィルタも、多少汚れが付いている程度だった。

ダイソンの掃除機の悪臭に悩む人は多いが、フィルタバッグ式掃除機の臭い問題は余り聞かない。

サイクロン方式集塵装置

サイクロン分離は、フィルタ分離できないゴミの回収に使用されるのが一般的だ。
例えば木工現場に於ける切りくずや砂塵などの分離がそれで、これをフィルタで集めようとすれば、すぐにフィルタが詰まってしまう。
そこでサイクロン分離機を使って”重いゴミ”を最初に回収した後で、通常のフィルタ分離を行う。

ただサイクロン分離機は渦を作るためにパワーが必要であり、消費電力が問題になる。
そこで自動清掃式フィルタ(ロール状のフィルタなどを使い、ゴミ回収部とフィルタ自体のゴミを落とすセクションを分けた構造)なども使われる。

泥水土砂分離機

こうした工業用として使われるサイクロン分離機を掃除機に応用したのがダイソンである。

サイクロン掃除機が出始めた頃に、国産のサイクロン掃除機を使ったことがある。
渦が出来ればゴミは分離されるが、掃除機の吸入空気量が減少すると空気が入ってこなくなるので渦が出来なくなる。
掃除機のヘッドがカーテンに張り付いたりしたり、絨毯を吸おうとしているような場合だ。
ヘッドをそこから剥がせば吸入空気量は増大するが、渦が出来るよりも早く、掃除機内に溜まったゴミがフィルタに吸い込まれていく。

その為1回の掃除ごとにフィルタを掃除しなければいけないという、とんでもない製品だった。
ダイソン製も同様なのだが、マルチサイクロン構造や多段フィルタによってその傾向を小さくしている。

ホンダ1300に見るこだわりの理由

ホンダ1300は1969年から1972年まで生産された小型乗用車だ。
本田宗一郎はあくまでも空冷エンジンに拘り、空冷エンジンを実現するためにあらゆる手を尽くした。

水冷エンジンを採用すれば、小型軽量で熱的にも安定なエンジンが可能だったが、その水冷エンジンと同様の性能を空冷で得ることに執着した。
エンジンに冷却エアの流れる通路を作るDDAC(二重冷却構造)を採り、ドライサンプ化するなどを行った。
この為エンジンは大きくなり、さらに騒音低減の苦労もあった。

本田宗一郎は、水冷エンジンもラジエータは空冷であり、だったら冷却媒体は空気の方が合理的だという信念を持っていたという。

普通の1300ccセダンでありながら、99シリーズは115馬力もの高出力は当時としては画期的だった。
しかしその高回転高出力のエンジンを空冷方式で安定に動作させることは難しく、やがて消え去ることになる。

ホンダ1300は空冷ありき、空冷にするためには何をすれば良いのか、あらゆる技術を詰め込んで空冷エンジンを完成させた。
ホンダの偉大なる失敗、その語り継がれる空冷エンジンと、あくまでもサイクロン方式に拘る、こだわり続けなければならないダイソンに同じ色が見える。

ダイソンがサイクロン機構の代わりにペーパーバッグ構造を取り入れたなら、おそらく吸引力は現在の2倍に達するだろう。

ホンダ1300が誕生する6年前にポルシェ911(開発コード901)が誕生する。
そしてその空冷ポルシェはエミッションコントロールも乗り越え、1993年まで生き続けた。

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コメント

  1. hoge より:

    とても詳しく書いてあり、ためになりました!
    古いモデルの方がフィルター汚れにくいのは、気のせいじゃなかったんですね…!
    たしかにサイクロン式にこだわるあまり年々変に複雑な方向に行ってるような気がします
    (でもカッコイイのでダイソン買っちゃいます笑)

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