リン酸塩・硝酸塩のコントロール

珊瑚・魚・猫

リン酸塩や硝酸塩は栄養塩と呼ばれる。
海の表層水ではいずれもゼロに近いが、深層水では栄養塩濃度が高い。
これは深層に於いては硝酸塩やリン酸塩を消費する生物(藻類なども)が少ないからだとされる。

水槽内では、SPS飼育時には双方共にゼロに近い値が推奨される。
LPSやソフトコーラル水槽では、硝酸塩4ppm前後、リン酸塩0.05ppm前後が良いと言われる。
ただ諸説があってN/P比(硝酸鉛とリン酸塩の比率)が10:1であるべき論などもある。
海では硝酸塩値は低く、リン酸塩値は深度とともに高くなる。

静岡県の焼津に海洋深層水を買いに行くことがあるのだが、深度270mの海水はリン酸塩値が0.2ppm程度で硝酸塩値が2ppm程度だった。
深度387mの海水はリン酸塩値が0.24ppmで硝酸塩値は2~3ppm程度だった。

硝酸塩のコントロール

硝酸塩のコントロールは比較的容易だ。
炭素源を添加する事により、脱窒菌が活動して硝酸塩を窒素にする。
しかし炭素源の使用にはリスクがある。
硝酸塩がゼロに近い状態で炭素源を使用すると、原始バクテリアや白点虫などが活性化する可能性があり、水槽崩壊となる場合すらある。
従って炭素源を添加する場合には、数日に1回は硝酸塩濃度を測定する必要がある。
NO3:PO4-Xに関してはこちらに書いている。

炭素源投与の他にはバイオプラスチックを使った方法もある。
これも炭素源添加と同様なのだが、バイオペレットからは必要な分だけの炭素源が供給されるので安全性が高い。
ただし即効性はなく、安定して稼働させるまでには多くの時間が必要になる。

過去には多くの人が使用していたデニボール(現在オリジナル品は販売されていない)もバイオプラスチックを使った製品だった。
これは有限会社野辺商会が発明したもので、バイオペレットの原型とも言えるものだ。
嫌気性土壌細菌群が働くとしていて、デニボールは底砂に埋めるなどして嫌気域で使う事が前提とされている。
現在は特許が切れた事もあり、他の企業が同様なものを販売している。
ただしオリジナルのデニボールとは異なり、原始細菌の増殖や白点病のリスクも囁かれる。

テトラのナイトレイトマイナスも、生分解性プラスチックを微細化したものだ。
作用としてはバイオペレットと同様なのだが、そのバイオペレットに相当する材料を微粉末にして水と混ぜてある。
完全に溶解するようなものではなく、水槽内で溶解しながら脱窒を行う。

今はあまり使われなくなったバイオペレットも生分解性プラスチックで出来ている。
魚水槽など硝酸塩値が数十ppmある環境では上手く働くのかも知れないが、珊瑚水槽では元々硝酸塩値が低いので目立った効果が見られなかった。
またリン酸塩値に関しても同様だった。
バイオペレットは徐々に分解(物理的に)され、それがサンプ槽やプリテインスキマー、水槽内に沈殿する。

硫黄系物質を使ったナイトレイトリアクタがある。
海外では多く使われているようだが、日本では未だ導入例がさほど多くはない。
硫黄メディアを充填したリアクタに海水を通す事で、その排水の硝酸塩値は容易にゼロに出来る。

最も簡単かつ確実に硝酸塩濃度を減らせるのは炭素源の添加だ。
炭素源の添加による硝酸塩の減少が実用的になる以前は、DSB(ディープサンドベッド)つまり嫌気層を積極的に設ける事によって、硝酸塩濃度をコントロールしようとするものもあった。

リン酸塩のコントロール

リン酸塩のコントロールは多少手間がかかる。
一般的にはリン酸吸着剤を使用する。
吸着剤には活性アルミナと鉄系(GFO)のものがある。

数年前までは活性アルミナ系の吸着剤が一般的だったが、最近はGFOの方が多い印象だ。
活性アルミナよりも多くのリン酸が吸着できる点で、GFOの効果は分かりやすい。
ウチでもGFOを使った事があるが、吸着量が飽和すると吸着したリン酸を吐き出してしまうので注意が必要だ。
また再生するには水酸化ナトリウムが必要で、多少コストがかかる。
なお水槽用品として売られている再生剤はかなり高額であり、再生剤を買うか新たにGFOを買うか迷うほどだ。

活性アルミナ系吸着剤は加熱再生や硫酸アルミニウム溶液による化学再生が可能だ。
ウチではカミハタのリン酸吸着剤を加熱再生して使っていた。
加熱再生は横浜時代(2000年頃)から行っており、安定した再生が出来る。
再生時には(ウチでは)300℃で1時間ほど加熱している。

ショップオリジナルの活性アルミナ系吸着剤も使った事があるが、飽和が早かった。
活性アルミナ系吸着剤でも種類があり、特性が異なる。
例えば酸化アルミナ系は、吸着量は少ないがアルカリ度の低下が抑えられる。

化学的リン酸塩処理としては塩化ランタンと鉄がある。
塩化ランタンを添加すると、リン酸塩はリン酸ランタンとなって沈殿する。
鉄(翠水の二価の鉄)を添加すると、リン酸塩はリン酸鉄として沈殿する。
この沈殿したリン酸化合物をいかに水槽外に排出するかが問題だ。
プロテインスキマーである程度は回収できるのだが、残った沈殿物は再びリン酸塩に姿を変えてしまう。

塩化ランタンの濃度は簡単に測れないのだが、鉄の濃度は計測が簡単だ。
リン酸塩の多い水槽に翠水の二価の鉄を添加すると、リン酸塩値が下がると共に鉄濃度も下がる。
鉄がリン酸鉄になってしまうからで、数値の計測によって状態の把握が出来る。
なおリン酸鉄は底砂中に沈殿し、底砂中のpHの下降があると再びリン酸として水槽内に出てくる。

翠水の二価の鉄にしても、塩化ランタンにしても、添加すればすぐにリン酸塩濃度は減る。
添加量が多いとリン酸化合物によって水槽水が白濁する。
なおリン酸塩値の急変でキイロハギは死んでしまう。
化学的処理でもリン酸塩値の急変は起こりうるし、GFOでもリン酸塩値は急速に下がる。

海外の記事では、塩化ランタン添加によるリン酸化合物を除去するには、10μm以下のメッシュフィルタが必要だと書かれている。
10μmのソックスフィルタを購入して実験した事はあるのだが、公称10μmのフィルタではリン酸化合物であるリン酸鉄やリン酸ランタンを完全には取り除けなかった。

塩化ランタンに関しては水槽内に添加するのではなく、循環を止めた状態でサンプ槽に添加して化合物を物理フィルタやプロテインスキマーで取り除き、その後循環を再開するのが良いと思われる。
これを自動的に繰り返す仕組みを作れば、塩化ランタンによるリン酸塩のコントロールが出来る。

吸着や化学反応以外では、ポリリン酸蓄積細菌によるリン酸塩の除去がある。
ポリリン酸蓄積細菌は嫌気域でリン酸を吐き出し、好気域では排出した以上のリン酸塩を取り込む。
リン酸塩を取り込んだポリリン酸蓄積細菌を、プロテインスキマーで排出する事でリン酸塩をコントロールする。

化学的リン酸塩の除去同様に、ポリリン酸蓄積細菌を効率的に水槽外に排出する必要がある。

ポリリン酸蓄積細菌は嫌気層が必要だ。
ポリリン酸蓄積細菌の活動が、嫌気細菌が必要とする炭素源と似ている事から、炭素源の投与でポリリン酸蓄積細菌を活性化する事が出来る。
なおポリリン酸蓄積細菌の活性化には、炭素源の投与開始から数週間以上かかる場合がある。

例えばリン酸吸着剤から炭素源方式に切り替える場合、炭素源を投与しながら吸着剤を取り除いていく。
例えば炭素源投与開始時に吸着剤を半量取り除き、1週間後に更に半量を取り除くなどだ。
吸着剤が少なくなるので一時的にリン酸塩値が上がるのだが、その状態を続けていかないとポリリン酸蓄積細菌が活動し始めない。

炭素源であるNO3:PO4-Xの添加を続けると、やがてリン酸塩は下がってくる。
ただし上にも書いたように、硝酸塩が枯渇するとトラブルが起きる。
従って硝酸ナトリウムや硝酸カリウムを添加し、硝酸塩濃度が下がりすぎないようにしながら、NO3:PO4-Xを添加する必要がある。

NO3:PO4-Xの添加によって、リン酸塩濃度は0.005ppm以下までコントロール出来る。
リン酸吸着剤を使用してもリン酸塩値は0.005ppm以下まで下げられるので、同様の効果と言える。

ポリリン酸蓄積細菌の活性化には時間がかかり、その間もリン酸吸着剤を使用すると(リン酸塩濃度が上がらないので)ポリリン酸蓄積細菌の活性化が遅れる。
つまりポリリン酸蓄積細菌によるリン酸塩値の低減を狙うためには、リン酸吸着剤の使用を中止する必要がある訳だ。

これは水槽立ち上げ当時のアンモニアや亜硝酸の上昇過程と似ている。
アンモニアや亜硝酸が上昇する事によって濾過バクテリアが活性化し、その結果としてやがてアンモニアや亜硝酸がゼロになる。
同じように、リン酸塩値がある程度上がってポリリン酸蓄積細菌が活性化すれば、やがてリン酸塩値が下がる。
ポリリン酸蓄積細菌の活性化には時間がかかり、ウチの場合では最初は1ヶ月ほどを要している。
NO3:PO4-X投入開始から3週間後までは、リン酸塩値は0.1ppm前後で推移していた。
しかし4週間を超える頃からリン酸塩値は1桁下がった。

繰り返しになるが、NO3:PO4-Xでリン酸塩値をコントロールする場合は、硝酸塩の枯渇に十分注意しなければいけない。
ポリリン酸蓄積細菌の活性化には多めのNO3:PO4-Xの添加が必要なのだが、それによって硝酸塩が下がりすぎるとトラブルが起きる。
繰り返しになるが、硝酸ナトリウムや硝酸カリウムの添加を同時に行いながら、NO3:PO4-Xを入れる事と頻繁な硝酸塩値の計測が欠かせない。
これはNO3:PO4-Xの使用上最も注意しなければならないことだ。

NO3:PO4-Xで硝酸塩やリン酸塩値がうまく制御出来ない場合、水槽内に嫌気性バクテリアが少ない事が考えられる。
通常は好気性バクテリアも嫌気性バクテリアも沢山存在しているはずなのだが、立ち上げ間もない水槽やライブロックを使用せずに立ち上げた水槽では、濾過バクテリアが十分に増えていない可能性もある。

バクテリアを増やすにはバクテリアの素を入れるのが手っ取り早い。
バイオダイジェスト、土壌バクテリア、サムライEXは嫌気性細菌を含んでいると謳われている。
しかしどんな細菌の集合体なのかなどが明確でないばかりか、バクテリア屋の説明にも多分に怪しいところがある。
バイオダイジェストは休眠状態のバクテリアで、土壌バクテリアやサムライEXは活性状態のバクテリアだ。
活性状態のバクテリアは、バクテリアとその餌がパッケージされていて、一般的には臭いが強い。
臭いに耐えられないのであればバイオダイジェストをお勧めする。
バイオダイジェストはリン酸蓄積細菌が含まれている(ような)記述がある。

活性バクテリアを水槽に入れると、デトリタスが増える。
おそらくはバクテリアの死骸ではないかと思う。
水槽に合わないバクテリアをどれだけ入れても、バクテリアの死骸が増えるだけだ。
ただしその死骸を物理フィルタやプロテインスキマで濾し取る事により、水槽水の硝酸塩やリン酸塩を排出出来る可能性がある。

バクテリアの素は一度に大量に入れても無駄だ。
ウチでは(バクテリアの素を添加する時は)微量ポンプを使って30分ごとに40マイクロリットル程度を入れる。
一日あたりの添加量として2ml程度(水槽水容量は250リットル前後)になる。
バイオダイジェストは1本/1ml(たぶん)だと思うので、週に1本程度を添加した。

バクテリアの素の添加を行ったり、あるいは中止したりしながら効果を確認した。
これは水槽リセットから2ヶ月目のテストである。
なお本実験はウチの水槽でそうなったと言うだけであり、環境が異なればバクテリアなども異なる可能性が高く、全ての水槽環境において同一の結果が出るとは限らない。
世田谷自然食品風に書くならば「個人の感想です」となる。

なお実験の全てにおいてNO3:PO4-Xは5ml/Day(水槽水容量は約250リットル)で添加している。
添加方法はNO3:PO4-Xの2倍希釈液を、毎日15時に10mlまとめて入れている。

底砂はパウダーを平均4cmとしていて、嫌気層を作っている。
硫酸還元は起きていない。
ポリリン酸蓄積細菌を効率的に活動させるためには嫌気域が必要だ。
底砂の攪拌生物としてアオイソメを入れている。
NO3:PO4-Xのみの添加でリン酸塩値は0.05ppm~0.08ppm位になる。
本実験時には給餌量などをなるべく変化させないように注意した。

【サムライEX】
元々は屋外の動物臭を消すために使っていたもので、野生動物の臭いを効果的に消すことが出来た。
しかし水槽に添加するとサムライEX臭が気になった。
添加量は4ml/Day(15分ごとに約41.6マイクロリットル添加)にして1週間継続した。
リン酸塩値はサムライEX無添加時と変わらず約0.07ppmだった。

【べっぴん珊瑚・土壌バクテリア】
以前に購入して冷蔵保存してあったもので、消費期限内の品物である。
土壌バクテリア自体に臭いはあるが、水槽に添加しても臭いが気になることはない。
添加量は2ml/Day(30分ごとに約41.6マイクロリットル添加)で1週間添加した。
リン酸塩値は無添加時の約0.07ppmよりも下がり、0.03ppmになった。

【サムライEX+土壌バクテリア】
サムライEXと土壌バクテリアの両方を添加した。
添加量はサムライEXが4ml/Dayで土壌バクテリアが2ml/Dayだ。
リン酸塩値は無添加時の約0.07ppmより下がったが、0.05ppmに留まった。

土壌バクテリアやサムライEXの栄養塩濃度を測ってみようと思ったが、色が濃いために難しい。

希釈度を変えながら測るなどすると、土壌バクテリアのリン酸塩濃度は50ppm前後ではないかと思われた。

土壌バクテリアが一定の効果を示したので、しばらくそのまま添加し続けていた。
その後水槽リセットから半年を経過し、バクテリアの状態も安定したのではないかと思慮されるので再度テストを行った。
すると土壌バクテリアの添加でも非添加でもリン酸塩値に変化はなくなっていた。
週に1度、何週か計測を続けたが、リン酸塩値は0.01ppm~0.03ppm位になっている。
硝酸塩は土壌バクテリアを添加しない状態の方が低くなった。(2ppm→0.5ppm)

バクテリアの素は水槽立ち上げ時やリセット後には有効であると思われる。
水槽内にバクテリアが少ないあるいは安定していない状態で、バクテリアの素は有効に作用する。
しかし時間の経過と共に水槽内のバクテリア量は飽和に達し、バクテリアの素を添加する意味が薄れてくる。

バクテリアの多様性と言う事で添加を続けることに害はないが、水槽環境に合わないバクテリアはやがて死んでしまう。
バクテリアの素を添加して水質が変化するのであれば、それは水槽内のバクテリアバランスに改善の余地があると考えられる。
逆にバクテリアの素による変化がないか少なければ、水槽内で安定した状態になっていると言える。

土壌バクテリアを添加するとデトリタスが激増するので、現在はバクテリアの素は添加していない。

NO3:PO4-Xは過添加による危険性が大きいが、NP-バクトバランスは安全性が高い。
土壌バクテリア+NO3:PO4-X添加時に発生する、赤っぽくネバネバした物質も生成されない。
ただし硝酸塩処理能力はNO3:PO4-Xに及ばず、高濃度の栄養塩は処理できない。

NO3:PO4-Xや土壌バクテリアの添加を中止して2週間経過した水槽の栄養塩は、NO3が約3ppmでPO4が約0.14ppmだった。
そこにNP-バクトバランスを添加し、5日目にはNO3=1ppm/PO4=0.08ppmまで減少した。
添加量は0.3ml/100リットル辺りから開始し、添加から2ヶ月を経過すると1ml/100リットルまで増やす事が出来る。

栄養塩と藻類

栄養塩が少ないと藻類やコケが発生しないと言われる。
逆に藻類やコケが発生している水槽では栄養塩が少なくなる。
なぜならば藻類が栄養塩を消費しているからだ。
これはつまり、リン酸吸着剤を使うとリン酸塩値が下がるのと同じで、藻類が栄養塩を吸収するから栄養塩値が下がる。

リフジウムも一時期流行った。
海藻類を増やす事で、これらに栄養塩を吸収させようという試みである。
実際に栄養塩値を余り下げすぎると海藻が枯れてしまう訳だが、栄養塩値が高い状態でもリフジウムがあるとコケなどが少なくなる。
これはコケが栄養塩を吸収するよりも早く、海藻類が栄養塩を使ってしまうからだと考えられている。

栄養塩と言うよりも、海水中の栄養素とでも言った方が良いだろうか。
単に硝酸塩とリン酸塩という話ではなく、海水中の様々な元素を吸収して藻類は育つ。

海洋深層水は硝酸塩値2ppm前後、リン酸塩値0.3ppm程度なのだが、海洋深層水で換水しても藻類が増える事はない。
もっともリン酸塩に関しては(水槽内ではポリリン酸蓄積細菌の働きによって)数日内に0.05ppm以下に下がってしまうので、海洋深層水のリン酸塩値が維持できている時間は少ない。

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