EPSONのプリンタはインク詰まりする。
これは20年以上前から殆ど変わっていない。
インク詰まりに悩まされてEPSONプリンタを使わなくなった時期があったが、10年ほど前には再びEPSONのプリンタを買った。
さすがに時が経ったので改善されているだろうと期待したのだが、甘かった。
ヘッドが詰まりやすいのは構造的な問題がある。
EPSONはマイクロピエゾ方式を採用していて、これは圧電素子によってインクを押し出すものだ。
利点としてはインクを加熱しないので変質を防げる事がある。
プリンタのヘッドに内蔵されたピエゾ素子の変位により、約50μSごとにインクを押し出す事が出来る。
ピエゾ方式は印加電圧によって変位量を変える事が出来るので、インクの噴射量自体を変化させる事が出来る。
インクの噴射時間と変位量(数段階)の両方が可変出来るので、より広範囲でインクの量を制御出来る。
これはモータ制御に例えればVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)、つまりモータの駆動電圧と駆動周波数の双方を可変するようなものだ。
余談ではあるがエアコンのコンプレッサ制御は、VVVFに加えてコンプレッサの容量も可変する方式がある。
広範囲での能力調整には、モータの出力制御だけでは効率が落ちるからだ。
同期電動機の場合は駆動周波数を変えると回転数が変わる。
駆動電圧を変えると発生トルクが変わるのだが、無負荷の場合は回転数は変わらない。
負荷がかかっている場合は駆動電圧を下げて発生トルクを変えると回転数が変わるが、これはスリップ率が上昇している事になり効率が下がる。
1990年代後半のインクジェットプリンタは、写真の画質に拘った。
民生用プリンタに多色インクが使われたのもこの頃だが、ランニングコストの高さもあってやがて廃れた。
現在はプロ用という位置づけで多色インクプリンタがある。
通常の4色の他にライトシアンやライトマゼンタ、ディープブルーに加え、黒からライトグレーまでを4濃度に分けて合計10色を使うのがEPSONのSC-PX1Vだ。
階調制御が上手く行ったとしても質感を得るためには多色インクが必要という考え方である。

圧電方式はインクの噴射量の可変範囲は広く出来るが、ピエゾ素子の変異による発生圧力はあまり高くないので、インクが詰まってしまうとそれを吹き飛ばす事が出来ない。
ここがEPSONプリンタのヘッドが詰まりやすい原因だ。
同方式を使うブラザーはEPSONほど詰まりやすくはない。
これはノズルの配置ピッチが原因だと言われていて、EPSONは高い分解能を得るために微細ノズルを使い、分解能と引き換えに詰まりのリスクを背負っている。
キヤノンはバブルジェット方式を使う。
これはインクを加熱して、その蒸気でインクを吹き飛ばす方式だ。
この方式はインクの噴射量自体は可変出来ず、インクの噴射タイミングや噴射回数で濃さを制御する。
モータ制御に例えれば、駆動電圧は一定で駆動周波数だけを可変しているような感じかな。
インクの加熱時間は5μS程度との事で、ピエゾ方式よりもかなり高速である。
また加熱によって発生する蒸気でインクを噴射させるので、ピーク圧力が10MPa以上になりノズルの詰まりを吹き飛ばす事が出来る。
加熱方式はMEMSなどの採用でピエゾ方式よりも構造的に高分解能が可能だが、噴射インク量をリニアに可変する事が難しい。
そこで多回噴射などでインク量を制御する。
ピエゾ方式に比較すると10倍程度の応答速度があるので、同じドットに10回噴射する事が(同じ印字時間であれば、理屈の上では)可能になる。
インクジェットプリンタの出はじめの頃には、印字品質の点でピエゾ方式が有利と言われていた。
それがMEMS技術の発達などで加熱方式がピエゾ方式と遜色のないレベルになり、現在では印字品質で両者を見分ける事が難しい。
印字速度や制御、プリンタとしての出来という点でEPSON製はキヤノン製より良い。
ただしインクの詰まりは致命的で、毎日使っていても徐々に印字品質が悪化してしまう。
一度詰まったノズルは中々自己回復しないので、徐々に詰まったノズルが増えていく。
色分解能でEPSON製に劣ると言われたバブルジェット方式だが、1度のインク噴射量が1pl(ピコリットル)程度と、今やEPSON製よりも高分解能となった。
多色モデルではimagePROGRAF PRO-G2で10色インクを使う。
キヤノンはEPSONの10色インクとは構成が異なっていて、黒からグレーが3色、シアンが2色とマゼンタ2色はEPSON同様ながら、赤とクリアを加えた。
EPSONはディープブルーを単独色としたが、キヤノンはレッドだ。
クリアはインク表面を覆って光沢を出すとの事だが、塗装で言う所のぼかし剤的な意味合いがあるのかも。

多色プリンタで思い出すのがシャープの多色カラーフィルタ液晶だ。
2009年にはRGBにシアンとイエローを加えた5色のものを作り、翌年にはシアンを排除した4色フィルタとした。
しかしながら2013年発売のモデルを最後に姿を消す事になる。

1971年に登場したカシオのタイピュータは、メカニカルポンプでインクを圧送し、マイクロノズルからそれを噴射した。
連続噴射されたインクは静電偏向板によって所定の位置を狙うように制御された。
印字に不要なタイミングにはインク回収管に向けてインクが噴射された。
現在では一般的となったドットマトリクス型のインクジェットプリンタは、1984年のEPSON製IP-130K(49万円)、HPのThinkJet(HP2225約12万円)、1985年にはキヤノンがBJ-80(17万円)が元となって進化してきたものだ。
当時からEPSONはピエゾ方式であり、HPやキヤノンはサーマル方式を使っていた。

メカニカルドットインパクトプリンタが全盛だった当時、静かで安価で省電力なプリンタとしてインクジェット方式が登場し、その後カラー化などで一気にシェアを拡大したのだった。
ちなみにドットインパクトプリンタでも、カラーリボンを使ってカラー印字(色数は少ない)の出来るものがあった。
このカラープリンタは所有していた事があったが、カラー印字の歳にはインクリボンを上下に動かすので、印字速度はかなり遅かった。
メカニカルドットマトリクスプリンタは、キャラクタROMが搭載されていた。
PCからはASCIIコードを送り、それがプリンタ内のキャラクタROM/漢字ROMでドット変換されて文字が打ち出される。
勿論ドット単位で制御するコマンドもあって、間違えずにドット制御のコマンドを送ればグラフィック印字が可能だった。
そのグラフィック印字で何かを打ち出してみたくなった。
その頃正月も近かったので、”寿”の草書体の字をドットに分解してプリンタに送ってみた。
データを作るのに頭が痛くなるほどの時間がかかったが、見事に寿の字が印字されたのだった。

コメント