TASCOのエアコン真空引き用ポンプを分解する機会があった。
2ステージでカタログ上の到達真空度は38ミクロンとなっている。
なおシングルステージのものは375ミクロンだ。
このミクロンという単位がよく分からなかったのだが、TASCOのページにはμTorrであるとの説明があった。
Torrは水銀柱の高さ(mmHg)と同じである。
最近はPaで記述する事も多くなったが、エアコン取り付け屋さん的にはミクロンが一般的か。
ちなみに38ミクロンは、38×0.133=5.054Paとなる。
エアコン設置の際の排気用として、メーカの規定では-0.1MPa以下となっているものが多い。
これはミクロンで言えば1000ミクロン(1mmHg)になる。
配管内のオイルミストなどを除去する目的だと10ミクロン(1.3Pa)程度まで引ける事が望ましいと書かれているものがあった。
最近のポンプではシングルステージで40ミクロン程度、2ステージだと数ミクロンまで引けるものが多い。
最初に書いておくが、ベーンポンプ部分の組み立てにはジグか何かが必要になる。
目分量というか、適当に組み立てるには難易度が高い。
従ってオーバホールを行うつもりであれば、メーカに出した方が良い。
自分で行っても出来ない事はないが、組み立てがとにかく難しい。
ポンプはモータにベーンポンプが直結された構造だ。
ベーンポンプはオイル漬けになっている。
まずはこのカバーを外す。
オイルには若干金属粉のようなものが見られた。
ごくごく細かなもので粉と言うよりも色といった方が良いかもしれない。
ポンプユニットは鋳造ものを機械加工したような感じだ。
構造的にはロータリエンジンと同じで、サイドハウジング、ロータとロータハウジング、サイドハウジングという形でサンドイッチになっている。
ハウジングを貫通して止めているビスが3本、ハウジングを一段奥のハウジングに止めているビスが2本である。
1stステージの上に樹脂が乗っているが、これは2ndステージの排気弁に相当する部分だ。
パーツ共用化のために排気ポートを樹脂で塞いでいる。
シングルステージモデルの場合は、ここに排気弁を付けるのだろう。
ネジを外していくと各ハウジングが外れる。
ガスケットなどはなく、面精度で気密が保たれている。
サイドハウジングを外すとロータが見える。
余談ではあるが、この状態でポンプを回すとペリフェラルポートのロータリエンジンのような音がする。
ここにも特別なシールはなく、ベーンは樹脂で出来ている。
ロータを引き抜くとこんな感じだ。
ロータも分解は出来るが、今回は手を付けなかった。
ベーンは2分割になっている。
シャフトにもスリットがあり、ベーンは自由に動く事が出来る。
スプリングなどは入っていないので、密着は油膜と遠心力だけだ。
オイルがどこから入ってくるかだが、各パーツの隙間から漏洩してくるのではないか。
オイル孔を開ければ真空度が下がってしまうので、ハウジングの隙間などから入ってくるのだと思う。
オイルの粘度によって隙間が塞がれると共に、わずかにポンプ内に入ったオイルが潤滑に寄与する。
内部に入ったオイルは排気口から出るのだが、油気分離機構がないのでオイルキャップから煙となってオイルミストが出てくる。
ロータハウジングやサイドハウジングを外す。
サイドハウジングの上になる部分に板バネのバルブ的ものが見えるが、これが排気口である。
一段目の圧縮機も、2段目の圧縮機と同じものが使われている。
一段目と二段目の位置関係はこんな感じ。
直径も同じだし、ベーンの位置(位相)も同じだ。
組み立ては分解の逆を行えば良いのだが、位置合わせのピンなどは入っていない。
各ロータやハウジングは一体加工されたものではなく、加工された任意の部品を組み合わせて作られているようだ。
位置関係はネジのみによって決められているのだが、そのネジ穴に寸法的余裕があるのでミリ単位でハウジングの位置を変えられる。
ロータとハウジングの位置関係はさほどクリチカルではない(ベーンが誤差を吸収してくれる)が、センターのシャフトとサイドハウジングの軸受けはピッタリ合っていないとシャフトが回転しなくなる。
おそらく組み立て時にはシャフトの位置を決めるようなジグを使うのではないかと思うが、それがない場合はトライアンドエラーで微調整するしかない。
わずかでも位置がずれるとモータが回転しなくなってしまう。
仮組みしてモータを回転させ、各ハウジングを貫通しているネジ3本を締めながらベストな位置を探す。
この状態で合いマークなどを入れておき、それがずれないようにハウジングの固定ネジを締める。
これを繰り返して位置出しを行うのだが、結構大変な作業だ。
ネジの締め加減でハウジングはわずかに傾き、それも軸受け部の抵抗となる。
均一にネジを締めて位置出しを行わないと、最終的にネジを締めたらモータが回らないなんて事になる。
調整時にはモータがロックしてもヒューズが飛ばないように、予め容量の大きなヒューズに替えておいた方が良い。
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