以前の記事でも書いたのだが、パルスによるサルフェーション除去は中国でも使われている。
中華パルス発生器には「従来のコイルの逆起電力を使ったものではなく、キャパシタディスチャージ方式を採用している」などとの文言が並ぶ。
高電圧パルスが作れればいい話なので、逆起電力方式でもキャパシタディスチャージ方式でも良い。
前回のパルス印加実験に続く第二弾として、中華パルスバッテリーチャージャを試してみる。
実はAliexpressで充電器を買おうと思っていたのだが、Amazonで(千円ちょっとで)特価販売されていた。
Aliexpressよりも安かったので買ってみた。
パルスバッテリーチャージャーの出力波形
中身は同一だと思うのだが、縦型のものと横型のものや色違いのものが販売されている。
パルスモードの出力電圧はどうなっているのかを、バッテリーに接続した状態で見てみた。
まずは遅い周期で長いパルスが出力される。
連続的に電流を流して充電するのではなく、断続的になっている。
2度電圧が上がるが一度目よりも二度目の方が電圧が高いのは、1度目のパルスでバッテリーが充電されるからだ。
このバッテリー(40B19)はフル充電状態でも2Aの負荷を接続すると数分しか持たない。
いわゆる、壊れたバッテリーである。
パルス印加後に電圧が下がってくるのは、充電電流がゼロになってバッテリーの端子電圧が下がるからだ。
このパルスは1秒に1組が出力される。
では抵抗負荷ではどうなのか。
丁度良い抵抗がなかったので24Wのハロゲン電球を接続した。
電球はフィラメント温度が上がると電流が減少するので、それに伴い電圧が上がっていくのが分かる。
波形からすると定電流とまでは言えないが、定電圧での出力ではない。
ハロゲン電球負荷ではバッテリーを接続したときのような波形にはならず、約250msごとに規則正しい矩形波が出力された。
最低電圧はゼロで最大電圧は16Vほどだ。
負荷を軽くしていくと充電器は停止してしまうので、50Ωの抵抗を接続したのが下の波形だ。
16Vのパルスの間に4Vほどのノコギリ状の波形が見えるが、バッテリーの状態か何かをチェックしているのだろうか。
このように負荷が変わると出力電圧波形も変わる。
謳い文句として、バッテリーの状態に応じた様々な充電方式を併用などと書かれている。
波形に細いヒゲが出ているのは高周波パルスである。
50Ω負荷では高周波パルスはあまり目立たないが、ハロゲンランプ負荷(定常で6Ω)ではレベルと頻度が上がる。
充電器にバッテリーを接続しないと、バッテリーエラーになり充電器は動作しない。
そこで負荷と別の電源を接続して充電器をスタートさせ、その後電源を外して充電器に負荷のみが接続された状態にして波形を観測した。
この充電器では0V-16Vのパルスだが、少し電流容量の大きな12V/24V対応充電器では12V-19V程度が出力される。
このパルスに重畳される高周波成分を拡大してみてみる。
これは、いわゆるデサルフェータのパルスと同じようなものだ。
電圧は、ダメになったバッテリーに接続した状態でで4.5Vp-pほどある。
従来から実験に使用している逆起電力方式のパルス発生器を接続すると、約2Vp-pのパルスが観測された。
従ってパルス発生部のインピーダンスはそこそこ低いと思われる。
波形は単純ではないのだが、これはCPUでそのように制御しているからだろう。
パルスの半サイクル時間はそう変わらないが、持続時間などは様々だ。
パルスの半サイクル時間は60ns程度だった。
50Ωの抵抗負荷でも同じように計測してみた。
抵抗負荷では容量成分が少ないので、波高は約24Vp-pと大きくなった。
波形自体はそう大きくは変わっていない。
AC DELCOのパルス重畳バッテリーチャージャでは、数百nsで波高100mV~1V程度のランダムなパルスが出力されている。
パルスバッテリーチャージャーの内部
内部はどうなっているのか。
メイン基板はスイッチング電源部だ。
高周波パルスをどうやって作っているのかは不明だ。
少なくともインダクタは見当たらないので、逆起電力方式ではない。
AC側とDC側は完全に絶縁されているので、AC側の電圧をDC側に印加するというような乱暴な回路ではない。
回路を追っていけば分かることではあるが、基板を眺めて追うのが面倒になった。
なおトランスの巻き線はDC側は1組だけであり、高電圧の巻き線は存在していない。
ヒートシンクが付いている片方はFETだ。
出力側は整流用のダイオードである。
LCDパネル側には小さな基板が付いている。
メイン基板の半田面にもデバイスが付いている。
一般的なスイッチング電源に比較すれば部品は多い。
デバイス名は分からなかった。
LCD側はLCDドライバと、もう一つはワンチップCPUだろうか。
取説は日本語でも書かれている。
通常の充電モードだとこのように表示される。
パルス充電モードの時には下のように表示される。
バッテリーは回復するのか?
ソーラシステムに使っていた40B19は、内部抵抗が16.29mΩでCCAが159Aだった。
約2Aの電流が流れる負荷を接続すると8分ほどでバッテリー電圧は9Vまで下がった。
約16Aの電流の流れる負荷を接続すると、約40秒でバッテリー電圧は11Vまで下がった。
この状態から充電器に接続すると、数分で満充電になる。
パルスモードでもトライしてみたが、パルスモードに於いても早々にバッテリー端子電圧が上がり、充電はストップしてしまった。
充電完了は充電電流も見ているようなので、負荷を接続するなどして電流を流し続ければ充電器は停止しない可能性もある。
前回の実験ではパルスを重畳させると充電電流が増える傾向だった。
しかしこのバッテリーはパルスの有無にかかわらず、500mAの充電電流でバッテリー端子電圧は17V~18Vまで上がってしまう。
電流を5A流そうとすると、充電電圧は20V程度まで上げる必要があった。
ただし20Vを加えておけば充電電流は減少することはなく、バッテリーが発熱した。
水系バッテリーの場合は電気分解の電圧が必ず存在するわけで、20Vを印加しても電池的にどうと言う事はなく、電気分解が起き続けているだけだろう。
バッテリーの劣化原因はサルフェーションであるとするのは充電器メーカやバッテリー再生屋だ。
一方で電極の分析結果から推定した鉛蓄電池の劣化モードとする研究レポートでは、以下が書かれている。
放電容量が低下した中古鉛蓄電池に多段階電流充放電処理を行い,分解・回収した電極を分析し次の知見を得た。 (1) 一部の中古鉛蓄電池を除いて正極格子のグロースは生じていなかった。 (2) 放電容量の回復は格子/活物質界面の性状とはほとんど無関係であった。 (3) PbSO4 粗大粒子は負極活物質の最表面だけでなく,格子と活物質との接合不良部,クラック部,孤立した閉孔内部など,様々な領域に存在した。 これらの知見から,供試体の中古鉛蓄電池の放電容量の低下が正極を主因とするもので,正極活物質のミクロ構造変化であったと判断した。
95AHのトラック用バッテリーの場合
次に電解液のチェックを怠った(MFではない)為に内部を乾燥させてしまったGH130F51で試してみる。
これは電解液が不足している状態でCCAが335A(JIS標準では695A)しかなく、電解液をセルあたりおよそ300ml補充した後に定電圧充電を行ったが、CCAは451Aまでしか回復しなかった。
約16Aの電流の流れる負荷を接続すると、1時間ほどでバッテリー端子電圧は11Vまで降下した。
負荷を接続していったん放電させた後、この充電器を接続しリペアモードで18時間充電してみた。
充電器の表示はフル充電となったが、リペアモードは停止することなくパルス印加は続いた。
CCAは454Aであり、回復していない。
平均約15Aの電流が流れる負荷(DC-ACインバータに小型コンプレッサを接続して負荷としたもの)を接続して、連続動作時間を計ってみた。
インバータはバッテリー電圧が11V迄下がると自動停止するので、その間の時間とした。
結果は丁度1時間だった。
バッテリーの公称容量は96Ah(5時間率)だが、実容量は15Ahしかない。
GH130F51はCCAが454Aある訳だから、CCAだけで見れば70D23(公称容量52Ah)と同様だ。
しかし実容量は15Ahである。
CCA(内部抵抗)は活きているバッテリーの判断基準であり、実容量が推定できるとは言いがたい。
28AHバッテリーの場合
40B19のCCAは159A(公称270A)、内部抵抗は16.29mΩだった。
このバッテリーに2Aの負荷を接続すると8分で端子電圧は9V以下まで下がった。
従って実容量は0.3Ah以下である。
使えなくなった5個の40B19は約5年が使用期間、わずかに容量が残っているGH130F51は4年7ヶ月使った。
両方は並列接続なので条件は一定、ソーラシステムでの放電終止電圧は11.8Vと高めにしている。
40B19は乗用車用のMF(メンテナンスフリー)であり、電解液は殆ど減っていなかった。
一方でGH130F51は電解液がかなり減った状態(300ml以上の蒸留水が入った)になっていた。
前回の実験に引き続き、ダメになったバッテリーを再生する魔法は無い事が分かる。
メンテナンス的に機能の回復を期待することは出来るにしても、瀕死状態のバッテリーを元気にすることは今回も出来なかった。
バッテリーを洗浄してみる
電気的処理がダメなら物理・化学的処理はどうか。
どうせ捨ててしまうバッテリーなので、電解液を出して洗ってみた。
電解液は極板の脱落物らしきもので焦げ茶色である。
電解液を出した後で水を入れて洗ったのだが、いくら洗ってもキリがない。
茶色の物質は鉛だろう。
廃液は一日放置すると茶色の物質が沈殿するので、上澄みはそのまま捨てて泥状のものは集めてゴミとして捨てた。
10回くらいすすいでみたが、廃液の汚さに変化は無かった。
これ以上やっても無駄というか、電極が全部無くなるまで茶色い水が出てくるのか?位な感じだった。
アルカリ溶液に浸けてみる
バッテリーの洗浄は既に行われている再生法なので、更にアルカリ処理をしてみた。
アルカリ或いは濃硫酸で硫酸鉛(PbSO4)は分解できるのだそうだ。
濃硫酸は持っていないので、水酸化ナトリウムを入れてみた。
ウチにあるアルカリ性物質の中で、もっともアルカリ度が高いものだ。
適当に(数グラム)入れると、ぶくぶくと泡立つ。
丸一日放置した後、また念入りに洗浄する。
洗浄すると茶色の、電極と思われる物質が流れ出てくる。
これも、いくらすすいでもキリがない。
すすぎ液のpHが7位まで戻ったところでよく水を切る。
電解液は粉状のものが沈むので、上澄みを使う。
スポイトで沈殿物を吸わないように電解液をバッテリーに入れる。
残った沈殿物はこんな感じ。
本当は綺麗な電解液を使いたいのだが、入手性が良くない。
比重1.28の希硫酸濃度は約37%にもなり、劇物指定だ。
濃度10%以下のものなら入手は可能なのだが、バッテリー用電解液(例えばGS YUASAのECKシリーズなど)は、現在は入手が出来ない。
薬局で硫酸を注文して取り寄せて貰い、それを自分で希釈するしかない。
得られるものが多ければそこまでやるが、今回は茶色になった電解液を再使用する。
どうせバッテリーはいくら洗っても、水を入れればすぐに茶色なんだし。
古い電解液は比重も下がっているはず(ウチにある比重計はレンジが異なるので量っていない)だし、分量もロワーレベルギリギリまでしか入らなかった。
電解液を入れ戻すと起電圧は12Vを示した。
この状態でパルス充電を開始する。
充電は2時間ほどで完了した。
以前よりは充電完了までの時間は長くなっているが、それでも短すぎる。
そこでいったん放電させ、再度充電してみたが充電完了までの時間は変わらなかった。
定電圧電源に接続して電圧を上げていくと、16V時に0.5Aほどの電流しか流れない。
CCAは192Aであり、洗浄前の159Aより増えているとは言うものの大きな違いではない。
内部抵抗は13.44mΩとなり、洗浄前の15.94mΩよりは改善した。
負荷を接続してのテストでは、約15Aの電流を流してバッテリー電圧が11Vまで降下するまでの時間は60秒であり、洗浄前の40秒よりは改善した。
しかしバッテリーとして使えるレベルには達していない。
電解液の比重は(サルフェーションの分だけ)下がっているはずだし、洗浄後にも多少は水が混ざるので更に下がる。
規定の比重にして実験してみたかったが、硫酸を注文して買ってくるのが面倒なので今回は行っていない。
オマケ
Blog Aの方で記事にしたが、スタンガン用高電圧発生ユニットを間欠放電させ、バッテリーに高電圧パルスを加えた。
スタンガン用高電圧発生ユニットは高圧発生部(マルチバイブレータとトランス)の出力を整流(含 コッククロフトウォルトン)し、コンデンサに電荷を貯めているものと思われる。
電荷が貯まって端子電圧が上がると放電し、放電すると電荷が抜けて放電ギャップの絶縁破壊電圧を下回る。
従って適切なギャップを設ければ、間欠的な放電が起こる。
高電圧と言ってもバッテリー端子で150Vp-p位だった。
これは逆起電力方式のデサルフェータの出力の数十倍にはなっている。
実験開始30分ほどで高電圧発生ユニットが壊れ、実験は強制終了となった。
なお30分のパルス印加でバッテリーに変化は無かった。
前回/今回の実験で分かったこと
パルスによるバッテリーの再生は、前回の実験同様上手く行かなかった。
回復の余地のあるバッテリー、つまり現状で使えているバッテリーを回復させる効果はあっても、ある程度能力の落ちたバッテリーには無意味で、これは前回の実験と同じである。
バッテリーの洗浄とアルカリ処理も、目立った効果は無かった。
タイランドやインドなどでは廃バッテリーの極板材を再加工してバッテリーを再生している。
鉛バッテリーのリサイクル率は99%以上だそうで、二次電池の中で最も高い。
原材料が鉛とセパレータ、プラスチックでありリサイクル効率も高いのだそうだ。
廃バッテリーは回収屋に持っていくと25円/kg~50円/kgで買い取って貰える。
40B19は300円前後になりGH130F51は1,300円くらいになる。
バッテリー再生屋でも、再生できるものは再生しダメなものは金属材としてリサイクルする。
再生バッテリーの価格が余り安くないのは、歩留まりが悪いためではないだろうか。
・ダメになったバッテリーは何をやってもダメ
・多少内部抵抗が上がった程度のバッテリーは、パルス印加で回復する可能性がある。
・CCA値(内部抵抗)は目安であり、充電容量を示すものではない。
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