日産キックスは何故星3つなのか？（６／２７）
◆　競合他社に比較して売れ行きが良くないと言われているのが日産キックスだ。価格競争力が低いとかリセールバリューが低いなどとも言われるし、その要因として内装が安っぽいとの評価もある。動力性能に関しても、本当にカタログ通りなのかと疑問視する声も。

◆　そんなキックスだが欧州や米国での安全テストでは星3つと低い結果となった。また後席の安全性では最低評価になってしまっている。レポートを見るとボディの変形量が同クラス他車に比較して少ないことが分かる。クラッシャブルゾーンが少ないために、乗員に加わる力が大きくなってしまっている。

◆　何故クラッシャブルゾーンが少ないのかは分からないが、前面衝突テストではフロントサスペンションが脱落していないように見える。一定以上の力が加わった場合にフロントサスペンションを後方に移動させないと、その部分が変形しないので衝撃を吸収できない。

◆　一方でオフセット衝突を考えるとフロントサスペンションの脱落がキャビンの変形に影響をもたらす場合もある。このあたりが設計の難しいところで、キャビンの変形を防ぎながら壊れるべき所が壊れるようにしなければいけない。サスペンションメンバーが傾かないような、つまり左右のメンバーが強固に固定されていると、全面衝突でもオフセット衝突時でも有効に衝撃が吸収できるが、強度を上げると一口に言っても設計上やコストの問題が付きまとう。

◆　キックスの場合は衝突時にフロントサスペンションが後方移動しないので、同クラス他車に比較すると乗員の前方への移動量が大きい。ボディーで吸収しきれなかった力を乗員が受けてしまう形だ。勿論エアバッグやステアリングコラムの収縮機能はあるのだが、そこにぶつかる人間の加速度が大きいことで、衝撃度が増加してしまっている。

◆　後席安全性も同様で乗員の移動量が大きく、それを支えるシートベルトが乗員の内臓を圧迫する。それでも衝撃を支えきれず、後席乗員の頭部が前席バックレストに衝突する可能性もある。これらもシートやシートベルトで解決できないことはないと思うが、クラッシャブルゾーンが10cmとか15cm短いことによる影響がことのほか大きいわけだ。

◆　次期モデルではこのあたりが対策される可能性はあるのだが、そもそも何故クラッシャブルゾーンを大きく出来ないのだろうか。サスペンションメンバーなりを脱落させればクラッシャブルゾーンは拡大できるが、エンジンなどの移動量が大きくなるので、それにまつわる安全性が課題になる。例えば燃料配管や高圧配線の損傷が起きないかとか、キャビン内に機構部品が侵入してこないかなど。

◆　キックスは全長が4290mmなので、フロント部分を10cm拡大すれば(たぶん)星4つは取れるだろう。勿論ただ伸ばせば良いという話ではなくて、構造材の強度や構造なども設計し直さなければいけない。現状で全面衝突安全性の向上策が見いだせないのであれば、全長を少し伸ばす手法もあるよと言うことだ。

◆　日産だって数多くの車両を開発しているのだから、衝突安全試験の結果がどうなるかは想定できているはずだ。社内テストや設計値とNCAPのテストが微妙に違い、星を一つ落とすという事はあると思う。しかし今時星3つはちょっと残念である。