樹木の伐採、切った木を移動するなどのためにウインチが欲しくなった。
これまではジムニーで引っ張るなどしていたのだが、自由な場所で自由な方向に引っ張るのが大変だ。
そこで中華ウインチを買ってみることにした。
と言っても所詮中華である。
仕様に偽りがあるのはもはや常識なのだが、まずはそれを見てみよう。
中華ウインチは同様の構造でいくつものバリエーションがある。
構造的にはモーターと不思議遊星歯車による減速機が同軸上にあり、そこにプーリーが連結されている。
ギア比 | 全長 | 重量 | モータ出力 | 電流 | |
2000LBS/0.9t | 153:1 | 300mm | 7kg | 800W | 120A |
2500LBS/1.1t | 153:1 | 310mm | 7kg | 900W | 120A |
3000LBS/1.4t | 153:1 | 310mm | 7kg | 1kW | 130A |
4000LBS/1.8t | 153:1 | 316mm | 8kg | 1.2kW | 130A |
5000LBS/2.3t | 263:1 | 420mm | 20kg | 2.4kW | 260A |
6000LBS/2.7t | 161:1 | 420mm | 22kg | 1.8kW | 230A |
8000LBS/3.6t | 203:1 | 530mm | 28kg | 2.8kW | 360A |
12000LBS/5.4t | 265:1 | 530mm | 38kg | 4.5kW | 600A |
16000LBS/7.3t | 343:1 | 580mm | 42kg | 9.6kW | 1300A |
仕様は付属の仕様書などから抜粋した。
電流が赤字になっているところは推定値、黒字はカタログ値だ。
2000LBSの仕様ではフル負荷の時に120Aとなっているので、モーターの入力電力が1.4kWで出力が800Wなのだろうか?随分低効率だ。
5000LBSより6000LBSの方がモータ出力が小さいなど、怪しい点もある。
今回購入したのは2000LBSである。
ワイヤーを全部ほどいた状態で巻き上げると903kgの能力があり、ワイヤーがフルに巻かれた状態では420kgの巻き上げ能力になる。
2000LBSから4000LBSまではモータが異なるのみで他は同一だと思われる。
付属するワイヤーロープ径も同一の4.8mmであり、このワイヤーロープの切断荷重は1.9t前後のようだ。
3000LBSが本当に1.4tの力があるとすれば、ワイヤーロープの破断限界に近い。モータがロックするまで引いた場合、ワイヤーロープが破断する危険性がある。
ギアの耐荷重などもギリギリだとすれば、2000LBSが妥当かなと思った次第だ。
国産メーカのウインチでは、5mmのワイヤーロープで160kg迄しか保証していない。通常は安全荷重で使う訳だが、中華仕様の場合は破断限界まで使う。
2000LBSの仕様
モーター出力は本当なのか?
中華仕様は相当いい加減である。
例えば18650のLi-ionバッテリー、中華仕様では電流容量が12Ahとか16Ah品がある。
現状の技術で実現可能な容量は3Ahを少し超えるくらいであり、明らかにおかしい。
LED照明灯などでも、LEDの絶対最大定格が書かれているだけで実際の光出力ではない。
HIDにしても入力電力より発光出力の方が大きいという、メチャクチャを平気で謳う。
国内メーカ品のカタログを見てみる。
トーヨーコーケンのBH-N815は250kgの能力があり、毎分10mの巻上速度だ。
モーター出力は580Wである。
もし巻上速度を0.9m/分に減速すると、約2.8tになる。
モーター100Wあたり483kgだ。
マックスプル工業のBMW-201-SC型は130kgの能力があり、毎分13mの巻上速度、モーター出力は400Wとなっている。
これを巻上速度0.9m/分まで減速すると、約1.9tの能力になる。
モーター100Wあたり475Wである。
シロ産業のM400CW-100kgは100kgの能力で、巻上速度は毎分12mだ。
モーターは250W(消費電力か出力かは不明)である。
巻上速度を0.9m/分に減速すると、約1.3tの能力になる。
モーター100Wあたり533kgだ。
NISHIOのSX-201は150kgの能力で、巻上速度は毎分17.7mだ。
モーターは750W(消費電力か出力かは不明)である。
巻上速度を0.9m/分に減速すると、約3tの能力になる。
モーター100Wあたり393kgだ。
他のメーカでもモーター100Wあたりの能力は400kg前後となっている。
一方で中華ウインチでは100Wあたり130kg程度の能力しかない。
DCモーターの低回転時トルクは交流同期モーターよりも強いので、むしろモーターが800Wなのではなく、実際には300W位だったりして。
ウインチを開けてみる
ウインチを開けてみることにする。
と言ってもモータと不思議遊星歯車とリールが同軸上に並んでいるだけだ。
リール部分とモーター部分は2本のネジで留まっているだけだ。
シャフトが前後するようになっていて、シャフトを引っ込めるとギアとの結合が外れてリールがフリーになる。
ワイヤーがほどけないようにガイドが付いている。
ギアボックス側の出力ギアが見えている。
亜鉛ダイキャストかなと思う。
出力側のリングギア上面にグリスの跡が丸くあるが、ここはプーリーとの間のガスケットが挟まっているその直径分だ。
ガスケットで押さえられているので、リングギアが外れない。
なお固定リングギアと出力側リングギアの間に摺動メタルなどはなく、グリス分で摩擦を軽減しているに過ぎない。
出力ギアは乗せてあるだけで、引っ張れば外れる。
裏側はグリスが充填されている。
密閉構造ではないので、グリスをいっぱいに充填することは出来ない。
モーターとギアボックスは外していない。
出力側のリングギアとプーリーの間にはゴム製のワッシャー的ものがあり、一応はシールされている。
遊星ギア部分は何と言うことはない構造だ。
不思議遊星歯車なのでプラネタリギアの歯には工夫が必要なはずだが、たぶん工夫していない。
動作音はガラガラした感じで、スムーズに回転するギアとは異質のものだ。
ギアの中心がモータ軸、プラネタリギアはフリーで動くようになっている。
リングギアはケースと一体になっているので回転しない。
出力軸は、このリングギアと歯数の異なるリングギアが重なるようにかみ合っている。
歯数が異なるので固定されたリングギアと、出力軸に接続されるリングギアでは回転数が異なる。
リングギアの一方が固定されているので、その差分だけ出力軸側リングギアが動く仕組みだ。
プラネタリギアで考えると分かりにくいが、モータ軸のピニオンギアに直径が同一で歯数が異なる2枚のギアが噛んでいると考えれば良い。
ピニオンギアとのギア比が10:1のものと11:1のギアの2枚が噛んでいるとすると、2枚の歯車の差は10:11になる。
この差分を取り出すのが不思議遊星歯車だ。
本来歯車は、歯数を多くすると直径が大きくなる。
そうでないとピニオンギアとのかみ合いが成立しなくなる。
ところが不思議歯車の場合は、直径は同じで歯数の異なるギアを使う。
その為(中華ウインチでは)クリアランスを大きくしている感じがする。
この辺りもガラガラ音の原因だろう。
歯車はかみ合い率を大きくすれば騒音は低減される。
ベベルギアなどは静かに回転する。
しかし不思議遊星歯車でかみ合い率を上げると(そもそもは数の違うギアがプラネタリギアに噛んでいるので)回転しなくなってしまう。
無負荷時電流は6Aほどだった。
仕様では8Aとなっている。
気になるのは実際にどの位の力が出せるのかだ。
クレーンスケール(吊り下げ秤)があればすぐに分かるのだが、これはウインチより高額だ。
ウインチの実力を試してみる
先日切り倒した木がある。
正確には切り倒していなくて、切ったのだが他の木に引っかかっている。
クヌギかブナかケヤキか、そんな類いだと思う。
根元の直径が25cm位なのでそう大きな木ではなく、重さは1tから2tと想像する。
この木を持ち上げてみようと思う。
切り株に近い側を上に引っ張れば切り株から外れるのではないか。
現在は切り株の所が外れずに他の木に引っかかっている。
受け口の角度がちょうど良かったというか、受け口の角度の分だけ傾いて他の木に引っかかった。
倒れやすいように追い口側の段差は切り取った。
上に引っ張れば摩擦力が低下して倒れている方向と逆側に滑り落ちる。
まずはワイヤーが滑らないように切り込みを入れ、そこに玉掛ワイヤーを引っかける。
滑車は近くの木の上の方に取り付けた。
この状態で引っ張ってみる。
ウインチの性能が能書き通りなら、持ち上がりはしないかも知れないが木が動く位するだろう。
ウインチとバッテリーを接続し、ボタンを押す。
荷重がかかるとモーターの速度が遅くなり、電流が増える。
最大電流は約125Aだった。
この状態では電線がかなり発熱し、プルプルになる。
木は動く気配すらない。
そこで滑車をフルに使って4本のワイヤーをかける。
これで速度は1/4、4倍の力で牽引できる。
この状態でどんどん引っ張る。
だが木はビクともしない。
そんなに重いのか?
いや、ウインチのパワーがなさ過ぎるのではないか。
虎ロープをつないでみたのだが、虎ロープは切れなかった。
虎ロープの公称耐力は800kgである。
牽引力を測ってみる
牽引力がどの位なのか、木が全く動かない事だけは分かった。
どうやって測るか、測るまで行かなくても推定する方法はないか。
そこで切り倒した木を輪切りにし、だいたい50kg位の重さのものを2個作った。
測りながら切っているわけではないので、2つの合計で95kg位だ。
体重計で重さを量ったが、重心位置などの関係もあるので余り正確ではないかも知れない。
とにかく重いのである。
木を切って運んで測って吊してと、ヘトヘトになりながらだったので写真を撮る余裕がなかった。
これにロープをかけ、滑車で4倍に増速して引き上げてみる。
中華ウインチは最内周部で907kg、最外周部で420kgの牽引力がある。
ワイヤーを少しほどいた4層目では540kgとなっているので、95kgの丸太は引き上げられるはずだ。
UPのスイッチを押すとワイヤーが巻き上げられ、5層目まで巻かれた。
5層目まで巻かれた状態での牽引力は470kgである。
それでも何とか丸太は上昇をはじめたので、5層目で380kg程度の牽引力はありそうだ。
この状態でモータは回転数が低下しているので、余力は殆ど無いと推定される。
と、この実験を終えてワイヤーを緩めたら異常に気づいた。
ワイヤーが一部ほどけようとしている。
全部ほどいてチェックすると、合計3箇所が同じような感じになっていた。
綺麗に巻き取れずにワイヤーの上にワイヤーが乗って荷重がかかったのか?
ワイヤーにテンションをかけただけで、勝手にほどける事はないと思うのだが…
コメント
[…] 虎ロープの切断荷重800kgに対して、中華ウインチの牽引力は400kg程度しかないので、大丈夫だろうと使っている。中古で買った滑車も大活躍だ。 […]
[…] 中華ウインチに関してはこちらに書いた。木を切る時などに5回使用した。ウインチのテストも入れれば6回目で壊れた事になる。 […]